こういうフリセシが好きかな

 

 次元城の外れ。空間の裂け目に森が映る光景を眺めながら、セシルが城の柵にもたれかかっているのをフリオニールが見つけたのは偶然だった。
 今日の進軍を終え、クラウド、ティーダと共にキャンプを張ったあとフリオニールは武器の手入れをしていた。セシルの姿がみえないな、とは思っていたものの 彼の武器類は多い。気になりはしたものの、それらを放置してセシルを探しにいくのもなんだか気が引けた。彼にだって一人になりたい時くらいはあるだろう し、いい年をした男をいい年をした男があれこれ詮索するのもどうだろうという思いもあった。
 あと、二人きりで平常心を保てる自信が少しなかった というのはあえて見ないふりをしておく。

 手入れを終えて息抜きに、と表を歩いているとそこに靡く銀の髪を見つけた。
 明らかに、気落ちした様子のセシルを。


「どうしたんだ、セシル。一人で危ないぞ。」
 勤めて優しく、そして何事もなかったようにその背中に話しかけた。
 物思いに耽っていたらしいセシルは、漸く気がついたという様子で少し驚いたようにフリオニールに振り向いた。
「あ、フリオニール…。ごめん。」
「おいおいあやまる必要はないだろ。別にセシルは何もしてないじゃないか。」
 笑いながらそう答えた。こういうとき最初に出てくる言葉が謝罪、というのは実に彼らしい。自分が驚いた事よりも、それによって相手を傷つけたのではないだ ろうかという思いが先に立つのだ。その優しさを愛しいと思う反面、痛ましくも悔しくも思う。自分はセシルから謝罪の言葉など望んでいないのだ。欲しいのは 謝罪なんかじゃない。もっと――
「フリオニール?」
「あ、あ!すまん、一瞬考え事してた。」
 あっという間にセシルに思考を奪われていた。彼と二人対峙するといつもこうだ。しっかりしろ自分!と内心で叱責する。
 しかし、フリオニールの意に反してセシルはそれで少し雰囲気を和らげられたようだ。
「ええ、ほんの何秒かじゃないか。器用だなぁフリオニール。」
 そういってくすくすと笑った。
「い、いいじゃないか!たまにはそんなことも、ある。それより、セシルは何を黄昏てたんだ?」
 あわてて話題を切り替えたつもりだったが、それはちょっと失敗だったようだ。
「ああ、うん…。また兄さんに叱られてしまってね。」
しまった。こんなことならそのまま自分が笑いのタネになっておけばよかったと後悔するも遅い。バッツあたりなら躊躇いもなくそうするんだろうが、ついカッコつけようと自分の身を守ってしまう性分が今は恨めしい。
 しかし、それ以上にフリオニールの心には兄さん…ゴルベーザ、という名が深く棘を刺していた。
「…会ったのか。」
 つい、口調が厳しくなる。
「うん。偶然、ね。」
「何を言われたんだ。」
 セシルが生き別れだった兄、ゴルベーザに弟として並々ならぬ情を傾けているのは知っている。ゴルベーザもまた、セシルに対して本当は悪い感情など持ってい ないことも。敵対などせず、共に手を取り合うことが出来ればいいと思うのに…そうは思うのに、何故か自分はゴルベーザに対して少し冷たい態度をとってしま う。いや、彼自身とまみえる時はそうでもない。むしろ世話にもなったと思っている。正確には、セシルの口から出てくるその名に…少し苛立つ。
「偶然会えたから…ちょっと嬉しかったんだ。そうしたら、『甘えるな』ってね。怒られた。…あれ、言葉にしちゃうとなんだかいつも通りだねぇ。」
「セシル…」
「本当にそのとおりだよね。僕はあの人に甘えすぎだ。君にだって何度もたしなめられているのに…もういい加減、懲りないとだめだよね。」
 そういってセシルは寂しげに笑った。
 家族の温もりを求め手を伸ばす、そんな事すら諦めてしまいそうな、儚げな表情で。

 確かに言った。自分は、敵方の彼と不用意に関わりを持つなと。
 だけど、それはセシルにそんな顔をさせたいためじゃない。―――そうじゃ、なくて――

 フリオニールの心が弾けた。

「ああ、御免ね。こんなこと言われてもフリオニールが困るだろうに…」
「そんなことない!別に甘えたっていいだろう!むしろ、セシルは甘えなさ過ぎだ!!」
「・・え?」
「セシルはいつもそうやって他人のことばかり気を使いすぎだ!もう少し、自分のことを考えていい!誰かのことなんかより、自分の心を大切にしていい!!」
「ふ、フリオニール?」
 年の割に冷静な彼らしくない剣幕に、セシルは気おされた。
「わかった。ゴルベーザがそういうなら、俺に甘えればいい!!」
「え?」


    ああ、判った。
    俺、悔しいんだ。
    セシルがそうやって甘える事を望む相手がゴルベーザだけだって事が。
    俺がこんなにもセシルに頼られる事を望んでいるのに、セシルは見向きもしてくれない。
    ほんの少しの荷物も持たせてくれない。
    そしてこんなにも求められてるのに、それを跳ね除けるばかりで応えようとしないゴルベーザが…恨めしいんだ。


 理解すると同時に弾けた心は急速に冷静になっていった。そして

 自分が何を言ったかも、理解した。

「あああ!!!いや違うんだ!!そうじゃなくてその、お、俺達の事も少しは頼りにしてくれと、そそそ、そう言いたかっただけででででd!!!!」
 頬を少し赤らめたセシルが自分を見ている。だけど自分は明らかにその倍以上真っ赤になっている。どうしたらいいかわからずに只ひたすらおろおろと両手を振っていたら、セシルの表情が徐々にゆるみ…そして笑った。声をあげて。
「あははは!大丈夫だよ、そんなに焦らなくても判ってるよフリオニール!」
 笑顔が戻った事にほっとして、少し冷静になったがまだ心臓がバクバクと脈打っているのが判る。
 ツボに嵌ったのか、セシルは目に涙を浮かべて笑っている。セシルのことだ、多分言葉じゃなくて動作が面白かったのだ。だけど言い訳は、さっきのミスを繰り返したくないので唇を噛んで我慢した。
「ごめんごめん、笑いすぎたね。」
 涙を拭きながらセシルがそう言う。
「・・・いい。自分でもおかしかったと思う。」
 どうあれ、セシルが元気になったのならいい。いいとする。…ちょっとヘコむけど。


「ありがとう。フリオニール。」

 ふわり、と小首を傾げ浮かべた笑顔があまりにも綺麗でフリオニールは呆然とその姿に見蕩れ、見惚れた。
 ややあった間を疑問に思ったのか、セシルがもう一度少女の様に首を傾げる。
「あ!いや、礼を言われるほどじゃない。それにその…礼を言うくらいなら…」
「何?」
「俺達を、もっと頼ってくれ。」


 『俺を』、と言えない自分はつくづく臆病だと思う。スコールの言葉を借りれば、チキン…というのだろうか。

 溜息を吐きたくなる気分だったが、横目にみたセシルが「うん。そうさせてもらうよ。」ととても綺麗な笑顔を浮かべたので、とりあえず今回はまあいいかと、満足することにした。

ゴル←(→)セシル←フリオ が理想のDFF関係図です。セシルはフリオをとても仲の良い友達だと思っているとよし。ティーダも片思いしてればなおよし。バッツは何故か気の合う友人。(好かれててもよし)

要するにセシルは常に右にあってほしいということですとも。