私は名家に生まれました。
父も、祖父も、代々バロンの王に近衛隊長として使えておりました。私も又、その自覚をもって幼少のみぎりより学び、武に学に、常に私を超えるものはありませんでした。
何者も、私を敬い讃え崇めました。
私はバロンの王に仕える者です。
それが生まれながらに約束された、選ばれし人間なのです。
微塵も疑う余地はありませんでした。
私が父の後を継ぐ頃には、バロンの王も代替わりをしておりました。肉親同士血で血を洗う相続争 いが、長い期間ではございませんでしたがありました。無論、父が味方についた人間が新たな王となりました。当然です。我が一族は王を守る誉れある家系なのですから、勝利せぬ道理はありません。
恙無く、私は父の後を継ぎました。
着任式を経て、私は王の横へと立つ名誉を与えられました。
そこは私の場所と生まれながらに定められているのです。
当然です。
私の誉れ高き道は、此処から始まる
筈 だった。
―王の横には、見窄らしい子供が一人居た。
―生まれも、親も、ましてや血筋など一切解らぬ何処の馬の骨とも知らぬ子供。
―王の覚えもめでたきこの私は、幼い頃より城への入場を許可されていた。父とともに幾度も謁見をした。その頃から、あの忌々しいモノは存在した。
―老人のような白髪。奇異な紫の瞳。男か女か解らぬ女々しい顔つき。怯えたように私を見るいじましい態度。
―すべてが気に食わなかった。
―王は、その子供を寵愛していた。
―王位継承の一件で、血の繋がりというものを嫌悪するようになったのだと後々父に聞いた。だから、血の繋がらぬ孤児の少年に心を赦しているのだと言っていたが、私にはどうでもいい話だった。
―竜騎士の名家、ハイウィンドの嫡男と懇意にしている姿も見かけた事がある。それも気に食わなかった。
―何故貴様が、城に、王の横に居る。
―だが、そんな卑しく汚らわしい子供の事、長じると共に記憶から忘れ去られていた。
―着任して幾許かした後、突然それは現れた。
―伸びたた白髪、死人のような白い肌。女が腐ったかのような顔つき。
―あの忌々しい子供は、王の庇護のもと分不相応な兵学校へと入学し、ふざけた事に騎士見習いとしてこのバロン城に戻ってきたのだ。
王は
喜んだ。
私が着任したその時にも見せた事のないような表情で破顔し
事も有ろうに
そのモノを抱きしめた。
あまりに 汚らわしい光景だった。
―暫く後、その男は暗黒騎士となった。
―まさか、あの試練から生きて戻ってくるとは思わなかった。
―陛下は再びお喜びになった。そしてそれに、新設の飛空艇団『赤い翼』隊長の地位を与えたのだ。
―気が触れているとしか思えなかった。
―時を同じくして、竜騎士団もまた世代を変えた。
―『赤い翼のセシル』『蒼き竜騎士カイン』
―それが、バロン軍の代名詞となった。
―王も又、その二人に絶対の信頼を置いた。
私は名家に生まれました。
父も、祖父も、代々バロンの王に近衛隊長として使えておりました。私も又、その自覚をもって幼少のみぎりより学び、武に学に、常に私を超えるものはありませんでした。
私の名は近衛隊長ベイガン。
王など、私の道を照らすカンテラの役割でしかないというのに。
何故 何故
私 ガ あの オトコ ヨリ
「…悔しいか。」
両の膝を着いた私に、黒い甲冑の男は囁いた。
握っていた剣は一度も振るわれる事なく、地に突き刺さっていた。振るうまでもなく、私の心はその男に魅せられ、捉えられたからだ。
掲げられた左手が己の心を労るかのように、空を撫でる。
「悔しいか。」
悔しい? そんな感情私には相応しくない。
「ならば憎いか。」
憎い。
ああ憎い。
あんな、下賤な、汚らわしい 男の風上にも置けぬ お前に騎士など似つかわしくない。そうだお前は奴隷として私に使えるのが相応しい
なのに ああ
王の横に居る者は
お前の横に居る者は
「ならば、私の下につけ。お前の栄光を阻む者を…その手で始末する力を与えてやろう。」
男はそう囁いた。
拒む理由はどこにもなかった。
心に闇が満ちそれが力に変わる、肉体が歓喜に震える。判る。ああ、私は素晴らしい力を得たのだ。
もう、王なんて飾り物はいらない。
「…待っていろ、セシル・ハーヴィ……」
意識せず、私はその名を呟き、高らかに笑っていた。
酷く、清々しい気分だった。
そして私は新たな主に、深々と礼をした。
私の新たなカンテラに――
「いいんですかゴルベーザ様。あいつ、大した男じゃありませんよ?」
機械の重低音響く塔の中、ふわりと身を浮かせ現れた風の女王は、地に足をつけるや否や開口一番そう告げた。ルビカンテあたりがいれば不遜だ不敬だと煩いところだが、ゴルベーザ自身は彼女のこの歯に衣着せぬ物言いを気に入っている。忠臣は、案じているのだ。
「判っている。だがバロンを内部から落とす為には、この上なく便利な男だ。」
バルバリシアの男を見る目は的確だ。だから普段「使える男」の選別は彼女に任せている。が、今回ばかりはそれに頼るまでもなく、あの男の器の小ささなど知れていた。
四天王たちから見れば反吐が出るような、主を自らの引き立て役だと思っている、忠義を知らぬ愚か者。いくら能力が高くても、あれでは信用など勝ち得る筈がない。
それでも重用せざるを得ない家柄だったのだろう。騎士とは面倒なものなのだ。だが、だからこそそれを承知で。
「王の近くに有れど忠誠は持たず。かといって、外から見れば腕は立ち、知にも秀でた名家の存在を切り離す事も出来ぬ。我々の計画にはおあつらえ向きの人材だ。お前たちは気に食わぬかもしれんが、暫し我慢してくれ。」
「いえ、滅相もございません。」
バルバリシアは頭を足れた。意図は理解した。主はあの男を捨て駒にするつもりなのだ。なら、懸念は何も無い。自分たちのように側に置いて重用するというならば賛同しかねただけだ。
こと、道を踏み外した者に対して慈悲深い主にしては珍しいとは思う。が、あの男程度には相応しい利用法だとも思う。長く使う程の価値もないと的確に判断したのだろう。
「これでバロンの情報は、殆ど駄々漏れでこちらに流れてくるだろう。機を見てカイナッツォを送り込む。そこからが…すべての始まりだ。お前も準備しておけ、バルバリシア。」
「は。」
そしてゴルベーザは重厚な鎧の音と共に、バブイルの奥へと去っていった。
あの男はどうでもいい。見極めるまでもなく、捨て駒以上にはならぬ器だ。
だが。
ベイガンの心に居た、あの男に闇を芽生えさせた銀の髪の…暗黒騎士。
「…セシル・ハーヴィ。」
心にほんの僅かひっかかったその名と姿は、障害になりうる可能性としての警戒故だろうと、その時のゴルベーザはそう思っていた。
主の背を見送ってから息を吐き、バルバリシアは腕を組む。
「…憎い、んじゃないと思うんだけどねぇ、それ。」
そーゆー複雑な男心はわっかんないか、あの人。
最近はなんていうか、昔よりずっと重くなられたからそんな話もし辛いし。
口には出さずにそう思う。
「ま、捨て駒ならどーでもいいけどね。」
男同士の惚れた腫れたなんて、リアルじゃ別に見たくもない。ましてやゴツい騎士同士なんて。
「ま、おちょくるにはちょうどいいネタだし、久々に遊んであげましょうか。」
一人笑って風を纏い、彼女もまた掻き消えるようにその場を去った。
年齢は考証してません。ゲームだとセシル、ベイガンにタメ口なんだよねぇ確か。
そんなに離れちゃいないんだろうね…。
基本、ベイガンさんはヘビのようにねちっこいドSだと思うんですが、バルバリシアにものすごいM下僕にされているベイガンも愉快だと思いませんか? 俺だけですか?
ヘビのようにねちっこく虐げられる快感に芽生えるベイガン(笑)
後半全くSSと関係ない話だな。
※2010.10.3 なー様より頂いた挿絵追加! 引越しだの新刊だので遅くなりましたことを改めてお詫び、そしてお礼申し上げます!
相変わらず好き勝手加工しました…。粒状フィルムの縦横は…これいいな。また新たなナイスPhotoshopフィルタを発見した。やはり『元がいいと何やってもかっこいいね!
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