怖い人。最初はそう思っていたよ。
小さい時に…あれはお父上に連れられて、陛下に謁見に来たのだと思う。その時に会ったのが最初だったな。
歳はそんなに離れていなかったから、挨拶をなさいと僕も非公式の席で紹介されてね。
その頃は、僕の髪や瞳を珍しがる人は…まあ、今でもいるけど、かなり多かったんだ。彼は代表みたいな人だったね。子供だったから、遠慮がなかったんだと思う。
目がね、怖くて。
食べられるんじゃないかって、何故かその時は思ってね。思わず陛下の後ろに隠れたんだよ。
子供だったからね、遠慮がなかったんだ。
そうしたらもっとすごい顔された。
なんていうか…言葉にしがたい表情。
もちろん、気のせいだったのかもしれないけど。
それから時折お城で会ったりしたんだけれど。もう怖くて怖くて、しばらく苦手だったなあ。
兵学校を卒業して、見習い騎士として城に戻った時には、もうこの人は近衛隊長だったよ。
家柄だけじゃないよ、優秀だったんだ。それは本当。
昔みたいに怖くはなかったよ?
けどほら、僕は孤児だからね。何かと目の敵にされる事も多くて。
ああ、ありがとう二人とも。大丈夫だよ。
正直に言うと、呼び出されそうになったことも何度かはあったよ。勿論本人からじゃなくて、その…取り巻きから、っていうか。その度にカインが庇ってくれて事なきは得ていたのだけれど。
まあ、調子に乗るなってことだったんだろうね。
ずっと見られているような気がして…少し苦手だったのは確か。
いや、それは気のせいだと思うよ本当に。
暗黒騎士になってからは、少し印象が変わったな。
すぐに赤い翼を任されて、名目上僕らは対等になったから。
敬語など使わなくていいと陛下が仰られてね。最初はちょっとやりずらかったけれど、陛下のお言葉だから。そのうち、慣れたんだけど。
彼もそうだったと思うよ?
うん、それからはね。
何もなかったんだよ。
本当に。
上手くやっていけてたと、思ってた。
それなのに。
「…どうしてこんな事になったんだろうね。」
セシルは人の形を失ったベイガンの遺体を前に、そう呟いた。
「闇を抱えておったんじゃろう。」
賢者がそう返した。
「そう、なんでしょうか。」
聖騎士は、動かなくなった魔物の遺体を丁寧に仰向けにし、腕を組み、彼のマントをふわりとその顔へとかける。
「…どんな形でも、同胞が逝くのは…悲しいね。」
誰にともなくそう呟いて、彼は短い間だけかつての同胞に祈りを捧げた――。
「…あんちゃん、人良すぎだろ。」
「そういうでないパロム。」
ていう、セシル→ベイガン視点のSSでした。
ていうか殺ったのおまえだろとか、そういう野暮は20年前くらいにおいてきてください( ´∀`)