はじめから気に食わなかった。
最初にあの男を見たのは、10歳になったかならないかの頃だ。父に連れられて陛下にご挨拶に来た時だった。たまさか、向こうも同じタイミングで同じ用向きで城に訪れていた。
蛇のような目をしている。
それが、俺の、あの男に対する最初の評価だった。
奴はその日初めて、セシルを紹介されたようだった。
ずっと。
ずっと見ていた。
セシルの背から。死角から。
俺はその視線に本能的な危険を感じて、セシルをあいつから遠ざけたのだ。
時折城で見かけはしたが、その都度俺がセシルを連れ出していたので、あの二人が交流する事はなかった。
それでも
あの男は、セシルを見ていた――
俺たちが兵学校を卒業する頃には、年上だった奴は既に親の後を継いで近衛兵隊長になっていた。父親が急死したのだという。
眉唾物の話だと思った。
奴はあからさまに、セシルを目の敵にしていた。
直接的ではないものの、遠まわしに取り巻きに命じ、事あるごとにセシルを呼び出そうとしていた。
その都度、俺が横槍を入れて未然に防いではいたのだが。
孤児のあいつが陛下に重用される事を快く思わない者は多い。その代表だとセシルは思っているようだった。
その裏にある感情を、あえて俺はセシルに説明しなかった。
あいつが暗黒騎士になり、赤い翼の隊長に就任してから、陰湿とも呼べる苛めはぴたりと止んだ。
あまつさえ実力者として褒め讃えもした。共に陛下を支えましょう、などと白々しい台詞も吐いた。
見事なまでに態度を急変させていた。
本当は見下していた。
忠義もなにもあの男は持っていない。
あの男にとって他人はすべて、自分を引き立てる為の装身具に過ぎない。
輝く他人は、それを持って自分の栄光の道を照らすカンテラだとしか思っていない。
だから
『自分』を引き立てない『王』など、あの男にとっては飾りにもならぬ不要なゴミなのだ。
セシルは。
あの馬鹿正直な奴は、最後までそれに気がつかないだろう。
はじめから気に食わなかった。今も、評価はしていない。
あの男はおそらく、ゴルベーザ様にも忠誠など誓っていない。
承知済みだと、かのお方は仰った。
ならば良いかとも思うが、だが――放っておく事も出来ない。
悔しいが、俺はまだゴルベーザ様に強く進言するだけの発言力を有していない。
ルビカンテが不在である今のゾットで、あのお方に言葉を通す為には…癪な話だが次にあのお方に近い、あの女に話を通すしかない。
目の前にやたらと重厚な鉄扉がある。
バルバリシアの「遊び場」だと聞いた。どうせ品が良いとは言えない事をしているのだろうとは思ったが、俺はゴルベーザ様の為 なら自分の不利益を厭うつもりはない。
扉をゆっくりと、押して――
「バルバリシア――」
「おーっほほほ!! この下衆男が! 蛇なら蛇らしく地を這いあたしの足をお舐め! ご褒美にヒールでその生皮はいでやってもよくてよ!」
「ああっ… これが新たな世界なのか…!!」
乾いた革の音が、密閉空間に響いていた。
……大丈夫だな。
そう思い、俺はその扉をそっと、開けなかった事にした。
ギャグです。
いい話は! 台無しにして! 完結する!!
それが俺のジャスティス!!!(゚д゚)クワッ