ルカと黒衣の兄さん

 

 あの二人が好き合っているというのは、それこそドワーフ城でお姫様をやっていた頃から知っていたから今更何とも思わないのだが。共に暮らす道は選んでいないものの、とうに体を許し合う仲だということもとっくの昔に知っているから今更何とも思わない筈だったんだけど。

 偶然とはいえそーゆー現場を目にするとちょっとあれでそれで嫉妬レディになりたい気持ちにはなるもんなのね。などと思いつつ、ルカは人気の二人分しかない月下の町外れの林を後にした。友人と、その彼氏に気を使って。
 なんて、そんな状況だとお察しください。

 

 

 

「ちょっと! アンタつきあいなさいよ!!」
 焚火のすぐ側の大木にもたれかかって、瞼を落としていた黒衣の男の足下にどかりとドワーフのお姫様が置いたのは、それはもう一升瓶と意外名付けようのない程の見事な一升瓶だった。
 黒衣の男はゆっくりと目を開けて、相変わらずの無表情のまま僅かだけ思案して…珍しく口を開いた。
「…飛空挺からこんなものを持ち出していたのか。捜索には重いだろうに、ドワーフとは丈夫なものだな。」
「しゃべったと思ったら感想そこ!? フツーそうじゃないでしょもっと言う事聞くことあるでしょ!」
 得体の知れない男に遠慮なく噛み付く姫君…改め新米技師ルカに、黒衣の男は少しだけ瞬きして再び考えた末。
「…… … …似合うな。」
「熟慮の末にそれか!! 嬉しくないわ!!!!」
 褒めたのに何が悪いのだろう。と言わないまでも軽く小首を傾げた男を、ルカは一升瓶の底で小突いた。
 二人の間を走る少し生ぬるい風につられるかのようにルカは盛大に溜息を漏らして、実にドワーフらしくどかりと地に座り込んだ。
「とりあえず、黙って付合え。」
 元々黙っちゃいるのだけれど。

 

 

 最近分ってきたのだが、この男戦闘以外の出来事にはどうにも結構な具合でピントがずれているらしく、この手のウサばらしには到底向いた相手とは思えない。
 が、まさか飛空挺にもどって当のエッジの部下達にこんな話愚痴るわけにもいかないし、パロムやポロムは色々思う所あって今は嫌だ。ヤンやアーシュラは論外だ。しょうがない、他に選択肢がないのなら一方的にしゃべればいいやとドワーフらしくさっぱりとルカは決め込んで、すでに一升瓶を開封しはじめている。
「…ドワーフの飲酒適正年齢というのを生憎私は知らんのだが、信用して良いのか?」
 見つめる黒衣の男の口調はやたらと真剣だった。
「ヘンなとこで生真面目ねあんた。大丈夫よ、あたしこれでもあんたと同じ位生きてるから! …のハズだから。」
 若くはないがイマイチ年齢の読み切れない男なので最終的に少々ぼかしつつ、半ば自棄鉢にずいと杯をさしだせば、黒衣の男は無言で、だが案外素直にそれを受け取った。

 さあ、ルカの見せ場だ。
 愚痴なんですけど。

 

「…でさ! そりゃアタシに気づいてないとはいえ、こんな星空の下でいちゃこらアハンウフンよ! リディアはともかく忍者は気づけっつーの忍者は!それとも知っててああなの!? さすが忍者、忍者汚いってやつ!?」
 干し肉をかっくらいながら手酌で焼酎をあおるドワーフの王女様改め新米技師改めただの酔っぱらいは、あきらかに壮年近い黒衣の男よりも見事なオヤジと化していた。
 焚火の向かいにいる当の男は、同じく手酌で少しずつ酒を注ぎながらもアルコールに意識はいっていないようで、何か不思議そうな顔をしてルカの話を聞いている。
「…済まぬが。」
「何よ。」
「話が見えぬのだが、いちゃこら某とは何だ。」
「ぶフ!!!」
 盛大に吹いた。
「ちょ! あんたマジ言ってんの!?」
 と突っ込んだ直後に、言いかねないか。と思い直しもしたが。
「ええい暗がりで男と女が二人きりになってすることなんて、そうそう選択肢ないでしょーが! 解らんとかいくら何でも言わせないわよ!」
 …ああ。 という頷きが帰ってくるまで、たっぷり20秒は経過していた。
 全部通り越して脱力しはじめていたルカに、黒衣の男は僅かだけ繭を寄せて言った。
「…生憎、ドワーフの結婚適齢期というものは知らぬが、うら若き女性が口にする話題でもなかろう。」
「だからなんでそんなところ真面目なのアンタ。」
 昭和のおじいちゃんか。と現パロなら突っ込んでいる所だったが。
「それとも、もうそういった年齢でもなかったか? ならば済まなかった」
「生真面目なのか失礼なのかはっきりしろよお前!!!」
 グーでパンチしたのは今回は許されると思った。むしろ一升瓶クラッシュじゃなかっただけマシだろうとも思った。
 黒衣の男のすっとぼけ振りに、なんか何かの一線を越えたルカが力強く立ち上がり、やけっぱちぎみに叫んだ。
「ええい! あたしはバリバリの青春まっさかりだい! 地上人でいうなら18〜19の花も恥じらう乙女ど真ん中よ!」
 花も恥じらう乙女は一升瓶の焼酎で干し肉はカッ食らわない。というツッコミが黒衣の男に思い浮かばなかったのは、返す返すも残念である。
「好き勝手言ってくれるけど、あたしこれでも国に帰ればそーとーモテるんだからね! それこそこんな人気のない暗がりに一人でいてごらんなさい! あっというまに身も知らぬ屈強な男たちにかこまれてアーレーなんて! まあ、王女なんて立場だからそんなこともないんだけどさ…」

 と、
 そこまで言って。
 気がついた。

 

 

 

 …え、ちょっとまって。
 今あたしの状況って

  

 

1.夜半である。
2.目の前にいるのは男である。しかもかなりでかい。
3.すでに半裸がデフォである。
4.酒が入っている。
5.全力で二人きりである。
6.王女ってナニソレ。

 

……どう考えても  今 大ピンチじゃーーーーん!!!!!

 

 

 

 

 そなたを組み敷くとあらば一個師団は必要だな。という貴重な黒衣の男のツッコミは残念ながらルカの耳には届いていなかった。

 以下こんな状況だったから。

  

  

 いやたしかにドワーフ族の美的感覚からいうなら、セシルみたいにつるっとした綺麗な人より単純にでかくてゴツくてヒゲな男のほうがモテる! あっ、誤解のないように言っておくけど、あたし個人の好みではヒゲいらないしセシルみたいな綺麗な人のがいいんだかんね! あ、師匠は別ね悪いとかじゃないからね!
 それは横に置いといてそう言う点ではこいつ、文句なくでかいし筋肉は相当なもんだし毛は異様にないけどもあたし的にそこはどーでもいいし確かにポイントは悪く…
 …あれ、ちょっとまて格好に圧倒されてて見落としてたけど、顔だってよくみりゃそんな悪くないじゃん愛想は悪いけど…!
 や! まて落ち着けルカ! こいつ半裸!半裸だから!!それだけでマイナスゲージ振り切ってるから!!! いやでもどーせ最終的には脱ぐんd…いやいやいやいや!! そこじゃな

 

 

「…どうした? もう酔いが回ったか。」
「へ!?」
 全力で思考の向こう側に行っていた。
「何か、私の顔でも気に障ったか?」
「あわわわち、違う違う!そうじゃないって! えーとその…さ、寒そうな格好してんなーって思って!」
 今更なことでごまかしてしまった。我ながら、今そりゃねーだろと突っ込んでいた。
「…問題はない。対処はしてある。」
「え、そうなの!?」
 生真面目な事に、予想外な答えが返ってきた。

 

 瞬間、ルカに電流が走った。
 多分、酒のせいだった。

「そうか! つまりそれは肉じゅばんなわけね!」
「…は?」
「そーよね! いくらなんでも腰布1枚で地上人が体温もつわけないもんなー! ね、ちょっとどうなってんのその超技術!」
「…いや、お前は何か勘違いを…」
「じゃああれか!ぴったりスーツか!! すごいじゃんちょっと見せてよ見せなさい!  ああ!それがあればカルコブリーナに乗り込んで夢の格闘ガンダ●的バンド技が出来るんじゃ!?」
「いや、構造上それは無理だろう。そうではなくて、魔法」
「ガタガタいわずに見せなさいよ! ええい男なら景気よく脱げーーー!!服きてるなら大丈夫だ問題ない! どうせ最終的に人類は脱ぐんだ!!」
「ま、待て何の話だ…! アルコールの回りが早すぎるだろうそなた… やはりまだ酒は早かったのか?」 
 ここまできてもどこかピントのずれた黒衣の男を、その上をゆくテンションマックスで勘違いしたルカが…
 どっかりと、それはもう全力で押し倒して乗っかっていた。

 

「ルカどうし…おわあああ! おめー何やってんだーーーーー!!!!」

 

 

ルカと黒衣

 

 

 

 騒ぎに踵を返してきたエッジとリディアが、只でさえ少ない貴重な布地をひんむかれそうになっている黒衣の男(の布)を保護する為に、小一時間ばかり全力の格闘を繰り広げたという。

 

 

「そもそもアンタたちが●○×で ○▲◎●×なのが悪いんだから!」
 …1時間後、ルカの逆切れパーティが始まっていた。
「ち、ちがうのルカ! あれはエッジが…!」
「それは認める!」
「ちょ…! 認めないでよエッジ!!」
「だが、だからってよりによって、これで済ますのはどうかと思うぞ俺は!! たしかにドワーフ的にはイケてんのかもしれんが!」
 そこじゃない。と突っ込むカインという人材が不在なのが残念だ。
「服きてりゃね!」
「えうっそマジかよ!? 冗談だと言って!」
「少なくともそこかしこで○▲◎●×繰り広げる汚い忍者よりマシだわ! まー多少生真面目すぎてピントズレてて時折失礼な男だけど!」
「まてやそれプラスねーだろ! 俺はそれ以下なのか!!」
「少なくとも戦闘では以下! 安心のがっかり初期ステよねアンタ! 間違いなく完璧こいつに負けてる!」
「それを言うんじゃね――!! あの野郎ばっかりレベルカンストして装備揃えてたプレイヤーのせいだああああ!!」
「あと10年惚れた女の横で指くわえてる男よりマシ。」
「ぎゃあああ! それはスクエニのせい俺の心がブレイブブレイクぅぅぅうう!!」
「DdFFに未練残してんじゃねーよ!」

 

「…あれ…何の話、してたんだっけ……?」
「……済まないが、私には最初から話が見えん。」

 カオスな二人を遠巻きに眺め、並んで小首を傾げるリディアと黒衣の男でありました。

ド修羅場シーズンの真っ最中に突然ライズしたはいいものの、修羅場真っ最中過ぎて書くに書けず、忘れないように一番メインのところだけメモっておいてそのまま放置していたまさかのルカゴル作品でしたww (メイン→ルカの心の叫び)
結果、時期的にはちょうどいいかと思われつつも、俺がルカのキャラを携帯1プレイ分しか観ていないので、喋り方とか違ってたらマジ御免。
正直言おう。「ほっほっほ。リディアよ、あたしに惚れるなよ。」で勝手にキャラ固まった感www

ルカは最初に公式で見たときの「え、ルカってあのルカ!?」って衝撃が未だに忘れられないな。
いいところに目つけたよなスタッフ。

H23.3月 挿絵追加。せっかくなんでモザイク処理を使ってみましたw 意味は無いが面白いことになったww