バッツと兄さんとお宝さがし

 

 湖畔で、大変を通り越して奇跡的なまでに珍しく、旅人ーバッツが膝を抱えて落ち込んでいた。
 思わぬ形で再び相見える事になったこの異説世界、かつて模造品の自分達が経験したそれよりも遥かに荒廃した大地。カオスもコスモスもない、過去に例のない形をもって再び訪れた混沌の世界。
 …それに負けじと荒廃した空気をがっつりと肩から背負って、旅人は座り込んでいた。
 すぐ隣には、かつてと同じように盗賊と獅子がいる。少し離れて弟、セシルもいる。他にも嘗ての敵味方問わず多くの見知った面々が。
 自分も含め時を経て年輪を重ねた顔も多いが、驚く程心根は変わっていないと思う。
 その彼らが、姿も中身も一番代わりのなさそうな男を…必死に慰めている気配が、ありありと漂っていた。

 端から見ても尋常ではない重苦しい空気を背負っている。普段を記憶から思い返してみると、はっきり言って恐怖を感じる程の落ち込みぶり。
 何があったか知らないが…まあ彼らの事だ、自分たちでどうとでも出来るだろう。自分が手を出すような事ではない。だから放っておいても良いのだが。
 良いのだが。

 こと、あの陽気な旅人があんなにも荒廃されては、他の士気にも関わる。かつて敗北続きのコスモス陣営において気力を下支え出来ていた要因には、あの男の明るさというものがそれなりの比重を持ってあった事は想像に難くないから。

 と、まあ。それなりの理由をこじつけて、かつてと違い兜を取り払ったゴルベーザはがしゃりと音を立て、世界の絶望を一身に背負ったかのような旅人の背へと歩いていった。

 

「ま、まあそのバッツ…元気だせよ!」
「出ない。」
 ジタンの慰めを切って捨てる。
「そ、そんなに落ち込むなよ、な!」
「無理。」
 フリオニールの気遣いを即否定。
「あーっと…落ち込んだ時はそう、ガツンといくッス!」
「ガツンと葬式でもすればいいか?」
 ティーダの言葉を鮮やかに躱し。
「…慰められるなんて、アンタらしくもない…元」
「じゃあ壁でも励ましててくれよな。」
 必死に言葉を選んだスコールに華麗なカウンターを食らわせていた。
 重傷だな…と誰かがぽつりと呟いた。傍目で見ても酷かったが、近寄ってみるともっと酷かった。
「…どうした。」
「あ、兄さん…!」
 異説の自分達にはすっかり聞き慣れた重厚な音を立てて歩くゴルベーザに、セシルが駆け寄った。その後ろから溜息を吐いて歩み寄ってくるのはカイン。
「珍しい事態が起きているようだが、何があったのだ。」
 一瞬、話していいものかという空気が旧コスモス陣営に漂う。それはそうだ。今回は…この14度目の召喚では神の摂理自体が崩壊しているから敵対する理由がないだけで、過去ずっとゴルベーザは彼らの敵だったのだ。
 まあ、当然か。とゴルベーザがそんな風に思ったのも束の間。空気は視線だけで「問題ない」という風に傾いた。
「実はね」
「 …まて、私に気軽に話して良い事なのか?」
 かえってゴルベーザが怯んだ。
「ゴルベーザなら問題ないッス。」
 軽やかにティーダが応える。この面々、全ての輪廻を鑑みるなら半数近くゴルベーザの世話になったりカオス側で面倒をみられていたりしてることに、当の本人だけ気がついていない。
「いまさら遠慮すんなって。実はこんなもの手に入れちゃってさ。」
 努めて陽気に応えて、いくつかのアイテムを広げたのはちょっと困り顔の盗賊。その手に乗っていたのは…粉。
「…骨粉?」
「そ。チョコボの。」

 大体、理解した。




「俺とバッツで宝探ししててさ。バッツがぱこーんと開けたヤツに入ってたのがこれ。」
 またそんな事をやっていたのかお前達は。とは、言外しないでおくが。言っても良いんだぞ、と言うカインの言葉も流しておくが。
「で、気を取り直してもういっちょ開けたのがこれ。」
 ひなチョコボの骨粉 と書いてあった。
「…。」
「まあ、立ち直れなくなる気持ちもわかるんですけど…。雛はきついよねぇ…。」
 セシルが苦く笑う。たしかに、チョコボ馬鹿にはキツかろう。
「全然何言っても効果なし。聞く耳ももってくれなくて参っちゃてたんだ。」
 オニオンナイト…改めルーネスが肩をすくめる。
「成程…光の戦士はどうした?」
 良くも悪くも一番現状を破壊…打破できそうな男の姿が見えない。
「ガーランドと一緒に斥候に行ってます。この世界の事は一番判るからって。」
 セシルが応える。成程、その間に遊んでてこういう事態に陥った訳だ。
 ティナがか細い声で呟いた。
「悲しいよね。もし私『モーグリの皮』とか手に入れちゃったら、きっと悲しくて…」
 暴走するな。とぽつりと言ったのは、カオス側で度々爆走トランスを目撃していたクラウドだった。ゴルベーザ以外には聞こえてないようだったが。
「聞いたついでだ、なんとかならないかゴルベーザ? まぁこんなことでお前の手を借りるのも馬鹿らしいんだが…。」
 ゴルベーザの『能力』を一番熟知しているカインがやや遠慮気味に問う。蹲る背中を見て、ゴルベーザはひとつ息を吐いた。
「まあ多少私の範疇外とも思うが、このまま立ち止まらせる訳にもいくまい。乗りかかった船だ、やるだけやってみよう。期待はするな。」
 そんな理由で最後の戦いからリタイアされては、それこそ今までの自分の苦労が水の泡になる気がする。見守る面々を背中に置いて、ゴルベーザはわざとらしく音をたてて旅人の横に立った。



「…話は聞いた。」
「じゃあ放置プレイ推奨。」
「聞く耳も持たぬという訳か。」
「…みんなの気持ちはありがたいよ。だけど、おれはもうこの世界で戦う意味を見失ったんだ。」
 たかがチョコボの骨で。と、一口には片付けられない理由があるのだろうが…。
「あ! 今たかがチョコボだと思っただろ!」
「ぬ。」
 よもやこの男に読まれるとは思わなかった。
 自分の言葉がトドメとなったか鬱積していたものに火がついたらしく、勢いよくバッツは立ち上がって叫び始めた。
「ボコはな! 親父が死んで一人になってからずーっと相棒だったんだ! あいつも群れからはぐれた独り者だった、おれたちはずっと支え合って生きてたんだ! 嫁さんもらって子どもが産まれてもずっと、ずっとおれたちの絆は変わらなかったんだ! 大事な、大事な…相棒なんだよ!!」

 

===Σ(;゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚  <嫁ってなんだーーーーーーー!!!!

 

 背後からのものすごい思念波を受信して一瞬ゴルベーザがつんのめった。
 押される様に尋ねる。
「…すまん、どっちの子だ?」
「ボコだよ!」
 チョコボかよ! と背後で空賊とおぼしき声が聞こえた。あと大多数が膝から崩れ落ちる音も。

 とりあえず背後は放置して腕を組む。まあ成程…そういう理由ならチョコボに執着する理由も判らなくはないが。
「…とはいえ」
「知ってるかゴルベーザ!」
 ものすごい勢いで台詞を被された。
「な、なんだ…?」
「子チョコボってな! 死ねるくらいかわいいんだぞ!!」
 …それはどんな死因だろう。思わず真剣に首をひねるゴルベーザがいる。
「ちっちゃくって黄色いのがな、手の平でひよひよ、ぴよぴよって鳴くんだぞ…。そのうちそれがな、おれの体温で暖かくなってうとうとして…寝るんだぞ。可愛いだろ…!」
 生憎とゴルベーザの人生においてチョコボと触れ合う機会は殆どなかったのだが。
 …例えるなら、産まれたばかりのセシルが、私の腕の中で 安らかな寝息を たてるようなもの か ?

 それは  それは。

  

ε==ΞΞ (p゚ロ゚)==○  ━━━━━━∽∽∽∽∽⊂)゚д).・;'∴ ガッ

  

 さっきとは別の、物凄い思念波を受信して頭痛を超えた衝撃と共にゴルベーザは正気に返った。
「(…だ、誰だ今のは…)まあ、うむ。多少想像はついた。」
「わかってくれたんなら嬉しいぜ!」
「まあそれはそれとしてだ。」
「が、それだけじゃない!」
 まだあんのかYO! と叫んだのは脳内の自分と背後のジェクト。
「あげくの果てにこれってどーゆーこったぁぁぁ!!」

 ずい、とバッツがおしつけてきたもの。その袋に書いてあったのは。

 シルドラの背骨。

 …召還石にあったな、そんな海竜。あれか。
「チョコボや子チョコボならまだあいつらじゃないって思えたからなんとかなったよ! だけどシルドラは駄目だろシルドラは! 固有名詞だろ! しかも本当に死んでんじゃんか!!」
 成程、本当のとどめはそっちだったか。
 背後で竜馬鹿…カインの嗚咽が聞こえた。
「この世界はおれを殺そうとしてるに違いない! このまま旅を続けたらきっと『飛竜の燃えカス』とか『モーグリの遺灰』とか『ガラフの踊り子衣装』とか手に入れたりするんだぁぁぁああ!!」
 とうとうバッツはマジ泣きを始めてしまった。
 最後はどう悲しいのか判らなかったが。
 判らなかったが。
 なんかちょっと、イラっとした。

 

 

 膝を抱えて号泣するバッツから、ゴルベーザは道具袋をぶんどった。
「あ! なにするんだよ!!」
「ふん。膝を抱えて泣く事しか出来ぬなら、貴様にこれは必要あるまい。」
 とびかかるバッツをゴルベーザは軽やかにショートテレポで躱す。
「哀れだな。こんな姿に身を窶してまでこの世界に来たというのに、貴様といえば咽び泣くだけ。これではこやつらも浮かばれまいな。」
「な、なんだよそれっ!」
 煽れば、珍しくムキになってきた。心にゆとりがないのだろう。
 内心、ニヤリと笑った。


 こうなれば、ゴルベーザの独壇場である。心の隙は埋めるだけ。
「死して、形を失い、なおこんな姿になってまでお前の手に還る事を望んだのは何故だと思っている。」
「還る って。」
「そうであろう。あの盗賊とまともな盗掘勝負をして勝てると思うか? ならば、これが、お前を選んだのだ。」
 ゴルベーザは骨達を振る。
「うわ! 遺骨を粗末に扱うなよ!!」
「貴様がそんな腑抜けでは塵同然だ。これの意味を考えたか貴様。」
「い、意味って」

「何のために、骨に灰にまで成り果ててお前に寄り添っていると思っているのだ! この馬鹿者が!!」
 珍しいゴルベーザの怒鳴り声に、場はしんと静まり返った。


ぱちり

 弾けた魔力と共に現れたのは黒い竜。ゴルベーザの使役する。
「!? ちょ、いきなり!?」
 すわバーストかと、思わずしゃがんで頭を防御したバッツに
 ぺろりと、生暖かいものが頬を撫でていった。
「…?」
 目を開ければそこにいたのは喉を鳴らす黒竜と、端を銜えられた道具袋。
 ぽてり、とバッツの手に落とされた。
「…これも、幼竜の頃に命を落としている。」
「…そっか。」
 じっと自分をみつめる黒竜の頭を、バッツは一つ撫でる。
「励ましてくれるのか? ありがとな。」
 笑って道具袋を風にかざした。
「そうだなあ。こんなになってまで、おれの力になろうとしてくれてるんだなあ。」
 立ち上がり、太陽にかざす。
「へこんでたりしたらシルドラに怒られちまうな。…ファリスにもどやされそうだし。」
 そういって暫し考えた後、バッツは風の用に笑った。
 もう、いつもの笑顔だった。

「おーいみんな! さっきは悪かったなぁ!」
 振り返り、笑って手を振るバッツに安堵する面々。やはりこの男の明るさは彼らにとって相当大きなものなのだろう。
 くるりとバッツは、改めてゴルベーザに向き直り見上げる。
「ありがとなゴルベーザ。あと黒竜。」
 感謝をこめもう一度撫でようと黒い竜に手を伸ばした。

ぱくり。


 バッツの絶叫がクレセントレイクにこだました。


「…サービスは終了、という事らしい。」
 通訳したのはカイン。
「よ、容赦ないね黒竜…」
 苦笑いでセシルが返す。
「元々ああいう気性なんだ。さっきのが奇跡と感謝しておくべきだな。」
 この竜騎士、ちょっと悔しかったらしい。

 私のセオドールの手を煩わすなバカッツが!
 という声は、それでも訳さずに心の中にだけ停めておく聖竜騎士だった。

 


PS

 ぱこり

 『クルーヤの髭』を手に入れた。

 

「…。」
「……。」

 

 

 壁に向かって仲良く膝を抱える月兄弟を、バッツが先頭になり全員がかりで必死に元気づけようとしていた。

DDFF最大衝撃の素材。本当に誰が抜いたんだろう。髭。

そして「Jの悲劇」はどんな形をしてるんだろう。
やっぱりジャムと靴なんだろうか。一人で垢抜けすぎてると思うんだが。DDFFはアイテム名が可笑しすぎる。

 

舞台は「知られざる物語」を想定してます。せっかく「ホンモノさん」らしいから、いっそのこと本当にそれぞれの世界から、それぞれの時間を経過したみんなが集結していればいいじゃないか! 夢オチなど認めん!!( ゚д゚ )クワッ!!
なんて思って書いてます。だからバッツがちょっと5くさいのか。
本来死んじゃってるキャラ達はDFFのご都合主義でおKさ! 次回長編本出すならそんな話が書いてみたいかも。

書きませんよ? かかないってば。 …ネタが降りて来ない限りは。