エピローグ

 

「かんぱーい!!」
 大人三人、子供四人が全員で声を上げ杯を合わせる。かちりかちりと、グラスやマグカップの音が響いた。
「いやー! 全員無事でよかったよかった!!」
「誰のせいでめんどくせぇ事になったんだよバカヤロー!」
 代表するかのように声を上げたラグナに、すかさずジェクトが突っ込む。笑いながらの容赦ない手刀が額に入ってビールもろともラグナはひっくり返った。
 どっと笑い声が響く。こりゃ明日、絨毯ごと取替だなとセオドールは思ったが、今日はさすがに怒る気にはならなかった。

 

 

 あれから、程なくしてやってきた救急車に載せられて、全員仲良く病院送りと相成った。
 一番症状の酷かったカインが熱中症と背中の低温火傷で、2日ビサイドの病院に入院。さすがのジェクトは異常なしだったが、セオドールは両手の酷い擦過傷 に、二の腕が軽い肉離れをおこしていた。なんともないと言い張る本人は、全員で力ずくで病院に押し込めた。押し込められた当人が一番症状を心配していたセ シルは、意外なことに軽い脱水症状と微熱程度で済んでいた。カインが頑張ったおかげもあるだろうが、おそらく本人が少しずつ丈夫になっているのだろう。
「内蔵が! アバラが折れたぁぁぁ!!」などと一番大騒ぎしていたラグナには、軽い青アザがついていただけだった。

 無理を言って宿に延長滞在したのち、戻ってきたのは一週間前。帰宅してからはそれぞれが身辺整理に追われた。
 ラグナは取材の原稿整理と出版会社への事情説明。セオドールは叔父に事情を説明して大学を休んだり、ハイウィンドの家に謝罪に行ったり。律儀に延長滞在 に付き合ったジェクトは、「自主トレ中、肉離れで緊急入院」などとメディアに報道されていて、本人とセオドール達は腹を抱えて大笑いしてしまった。最も、 以前には「海で行方不明」と報道されかけたこともあったらしく、それに比べれば全然マシだとは本人談。普段からどんなトレーニングをしているのだと、セオ ドールは突っ込まざるを得なかった。

 一週間たってそれぞれ身辺を落ち着かせた面々が、今日こうしてセオドールの家に集まって盛大に快気祝いと相成った。
 普通に家族同居の家に乗り込むのもなんだと、さすがに大人の二名は当初言っていたのだが、セオドールの傷具合がまだ完治していないのと、当のご家族がやたらに宴会を歓迎してくれたため、それに甘えることにした。どうやら、長男が友達を連れてくるということが大いに珍しい…を通り越して目出度いことらし い。
「でも俺父さんに褒められたんだぜ! よくがんばったって。」
 お泊りの許可をもらってやってきたカインが、誇らしげに言う。
「えへへ、カインかっこよかったよ。」
「だろー?」
 その横でセシルが嬉しそうに言う。
「ちぇー! カインずるいッス、俺もセシルのガードしたかったー!!」
「お前じゃ無理。セシルより小さいから。」
 駄々をこねるティーダをクールに切って捨てるのはスコール。
「じゃあおっきくなってからするッス!!」
「そんな機会もうない。あったら困るって言ったのお前。」
 負けじと空気を読まないティーダが言い返す。それにスコールが再び切り返す。スコールはすっかりティーダのツッコミ役に収まったようだ。
「お、いいねー。子供は微笑ましいねえ!」
「いや、微笑ましいともちっと違う雰囲気じゃねえか…? つか、お前の甥クールすぎ。」
 こちらもティーダに負けないKY、ラグナが笑い飛ばしそれにジェクトが突っ込む。こちらでも妙な構図が確立しつつあるようだった。
「で、お前の記事は結局どうなったのだ。人に全部文章校正をやらせたあれは。」
 酒のせいで多少機嫌が良いのか、珍しくセオドールが話しを振った。入院中、本を開くどころかキーボードも触れない怪我の状態で暇を持て余していたセオ ドールに、ラグナは記事の文章直しをたのんでいたのだ。1日丸々かけて書かれたものは手のひらを負傷しているにも関わらずものの1時間足らずで総チェックさ れ、大量の赤字を伴ってラグナに返却されたらしい。赤字チェックの代筆はセシルが務めていたので、難しい漢字以外は実にかわいらしい文字が書かれていたそうだ。
「随分と言葉の使い方を間違っていたが…全部直せたのか?」
「おお! もうバッチリよ!! 珍しく綺麗な文章だって褒められたぜ!」
「お前は普段からあんな文章を…」
「そりゃ、ギャラの半分こいつにくれてやんなきゃならねぇな。」
 飽きれたセオドールの横でジェクトが笑う。ラグナが思い出したように両手を叩いた。
「そうだ!ギャラで思い出したぜ聞いてくれ、急遽プチ特集ページくれることになったんだぜ! 特集・ビサイドの隠れスポットコーナーってな!! 原稿料もけっこう上乗せしてくれてさ、入ったらみんなでメシくいに行こうぜ!」
「マジかよ!!」
 小難しいことどこ吹く風と陽気に喜ぶラグナに、ジェクトは口笛を吹く。反して尋ねたセオドールは眉をひそめた。
「そんな余裕があるのか? 詳しい事情は訊かぬが、お前はあの子たちを養っていると言っていただろう。4人抱えてそんなゆとりがあるのか?」
「そこでも家族第一かいおめぇは…」
 手酌で何杯目かのビールを注いだジェクトが控えめに突っ込んだ。
「あー、まぁそれ言われっとつれぇんだけどさー。まあ生活費の支援は実家からも今んとこでてるから、なんとかならぁ。」
「おいおい4人分の生活費ポンと出すのかよ、おめぇの実家はなんだコラ。」
 笑い飛ばすジェクトにとんでもない単語が返ってきた。
「んー、まあ政治屋だかんなー。なんだかんだって金はもってんじゃねーの?」

「・・・・・・は?」

 大人の世界が圧縮された。

「あれ、俺言ってなかったっけ?」
「言ってねぇ! 一切言ってねぇよ!!」
「まて、お前…名字は何だ?」
「あれ、俺言ってなかったっけ?」
「だから言ってねえよ!」
「レウァールだよ。ラグナ・レウァール」
 …5秒後に、セオドールが頭を抱えた。
「その名字の人物が…ついこのあいだ新党の党首に収まっていたようなニュースを見たんだが…」
「ああそう、それ。」

 

 
 よくわからない奇声を上げる大人たちを置いておいて、子供達は子供達でPSP経由で熱いバトルを展開していた。
「よしカイン、勝ったほうがセシルとデート1回な!」
「構わないぜ。一発勝負か?」
「い、一発は…3戦勝負っス!!」
「なんだよそこで尻込みすんのか? ま、俺は構わないけどな。」
 張り切るティーダに対して受けるカインは余裕綽々だ。ティーダがもってきた対戦格闘ゲームは、ぶっちゃけカインの得意ジャンルである。今商品にされたセシルはというと…スコールとカードゲームに興じている。
「んー・・・どうしよう、スコール強いなあ・・・。」
「(まだまだ手加減してるんだけどなぁ)ところで、今あんたが商品にされたみたいだけど、いいの?」
「え、なぁに?」
 聞いていなかったようである。


「まて、じゃあお前…将来、政治家なんのか!?」
「えー、今んとこ興味ねえけど、もしかしたらなっかもな!」
「・・・嫌だ。この男に国の将来を預けるのだけは嫌だ・・・!!」
 数分後、頭を抱える大人たちの後で子供達も大変なことになっていた。
「ぎゃー! カイン強すぎチートっス―――!!」
「んなことしてねぇよ、お前が下手なの。じゃ、延長含みで5回連勝したから約束通りセシルは俺のな。」
 いつの間にか商品レートが高くなっている。さらりと言ったカインに、ついにティーダが泣き出してしまった。・・・大声で。部屋中に響く、声で。
「やだー!! セシルは俺がお嫁にするッス――!!」
「―――っと待て! 今誰が何と言った!!」
「あ、馬鹿ティーダ!」

 そして世界は、混沌の渦に巻き込まれた。


「な!? ガキどもいつのまにそんな複雑な関係に!!?」
「出会った時からッス!!」
 父親の問いに言い切った。涙ながらに。アホいうなとジェクトが突っ込む前に、ガツン!と何かがぶつかる音がした。見ると、セオドールが勢いよく壁に額をぶつけていた。
 一瞬場が静まり返った。
「お、おい…大丈夫か…?」
 恐る恐るジェクトが声をかける。

 と、セオドールがぽつりと呟いた。

 ジェクトにだけ届く音量で。
 呪いのような低い声色で。

 
「・・・・・・ジェクト、コロス。」

 

 

※以下の恐怖映像は音声のみでお送り致します。

「逃げろジェクト!俺が抑えてる間に構わず行け!!」
「恩に着るぜラグナ!!」
「ちょ! 何で俺まで逃げなきゃなんねーんだよ、はなせクソ親父――!」
「離せラグナ! あの親子纏めて叩き切る!!」
「ぎゃ――! オーラが黒い――!! 二人ともにげて超にげて――――――!!」
「カイン、今のうちに部屋の刃物を回収するんだ!」
「ったくめんどくさい兄貴だなホントに…」
「にいちゃん落ち着いて―――!」


 ザナルカンドエイブスのエース・ジェクト様は、一目散に、脱兎の如く高速で、息子を抱え窓から逃げ出したという。
 魔人とはあの事を言うのだろうと、後々までジェクトは地元の友人に語り継いだそうだ。

 

 

おまけ:
「あのねにいちゃん。いっこだけ言い忘れたことがあったんだけど…」
 大変なことになった自室で寝るのを諦め、セシルの部屋に布団を持参してからそこにセシルを入れると、半分寝ぼけ眼になったセシルがぽつりと口を開いた。
「なんだ?」
 布団の上からぽんぽんと軽く触れる。遊び疲れとあたたかさと、優しく撫でられる感触に殆ど瞼が落ちた状態で、セシルは兄の胸に擦り寄り…言った。
「…お嫁には、いかないでね。」
「…… …は?」

 そのまま眠ってしまったセシルを起こす訳にも行かず。セシルの反対側で寝ているカインや、客間で眠っているスコールとラグナを叩き起こしたとしても事情を知っているとは限らず。

 セオドールは一人、記憶を掘り返し明け方近くまで頭を悩ませていた。

 

  

 BACK RESET

終わりました!
馬鹿話に最後までお付き合いいただき誠にありがとうございます!

ゴル・ラグナ・ジェクトとFF三大大好き中年トリオ(30歳は中年ではない!!)結成で俺はもう満足です。
やりきった感でいっぱいですとも。
今後も何か降りてきた際にはふいに書くかもしれませんが、問題は俺が10組、ブラスカさんとアーロンとのトリオをゲーム1回分しか把握していないことだな…。
次に出したいランキングはキロスとウォードだから、バランス取るにはやはりそこに触らずにはいられないわけで…。
ブラスカさんて、にこにこ笑いながらズバズバもの言うようなイメージあるんスけど、間違ってる?

この後はそうね、ジェクゴルになっていく話でも…

だれか書いてくれませんか。