セオドールが、毒虫をダースで噛み潰した顔をしている控え室、なう。
「お前あんなこと出来たなんで知らなかったぞ! なんだよあのギース・ハワードみたいな技!」
「そーだよ! ひどいよ僕たちにナイショなんてー!!」
子供二人が大糾弾中。ジェクトもガーランドも笑いを堪えるのに必死だが堪えきれていない。ちなみに叔父とルーベルは、セシルが持ってきた資料を手に先に研究室に戻っている。ゆっくりしていきなさいと言って。
「あー… 言うほど強くはないからな…」
「強いだろ! めっちゃ強いだろだってこいつ総合格闘のチャンプ!!」
カインは格闘技も好きなのだ。
「…ハンデ戦だ。」
「だとしても!」
「まってカインー!」
視線を外しまくり歯切れもめちゃくちゃ悪いセオドールと憤慨するカインの間に入ったのはセシル。
「いいよ、隠してたことは怒らないよ! ねえそのかわり」
「僕にもあれ、教えて!!」
まあ、そう来ますよねという展開だった。
「駄目だぁぁーーーーーーー!! それだけは許さぁぁんーーーッ!!!」
「なんでー! 僕だって体きたえなきゃダメなんでしょーー!?」
「それとこれとは話が別だ! お前はあんなもの覚えずともいい!」
「どうして!? 屋内でできるでしょ! 僕も強くなりたいよー!!」
「絶対に駄目だあれはお前には危ない…!!」
「よいではないか。合気は護身術でもある。いざというときのため身につけて損はないぞ。」
「ガーランド貴様ぁぁぁ!!!」
「俺もやる! お前に教わるのは癪だけど、セシルがやるなら俺もやる!」
「やったー! 一緒にやろうねカイン!!」
「お、じゃあウチの息子様にもおしえてやっかな。やるっつったら混ぜてくれるか?」
「うん!」
やれチャンプとキングが言うなら決まったと子供たちは大喜び。
兄貴は…
「……っっ…! だから…だから教えたく…なかったんだ……!!! こうなるのは…目に見えていた…のに…ッッ!!」
全開で泣きながら毒虫を噛み潰し続けていた。
「ぶふっ…! ま、まあいいじゃねえか。男の子なんだし、強くなるのはいいことだぞ?」
わかって、煽ってみた。
「ふざけるな! セシルが…セシルが…お前たちのような筋肉ダルマになったらどうするんだァ――――――!!!」
「ぎゃ―――はっはっは! やっぱりそこかよ―――!!」
「合気だけで筋肉はつかんだろう!」
「黙れそういう問題ではない!! 貴様らそこに直れ! 手足の関節全部バラしてやるわぁぁぁ!!!」
「きゃああ!! 兄貴が銃刀法違反――ッ!」
「うるさいこういう時のために帯はとらなかったのだ!! それに厳密には銃刀法ではない!」
「周到すぎんだろオイ! ってか加害者だと関係なくね!?」
後ほど、控え室の修理代金がフースーヤの研究室に回ってくるのだが、土下座で謝る甥にフースーヤはニコニコと笑い言ったという。
良い友ができたな、と。
おまけ1
「遅い! 遅いぞガーランド!! 夕飯が冷めるではないか!」
大学の門に、三角巾と割烹着とおたまを装備した謎の美青年が立っていた。
「おおライト。すまんな、ちょっと懐かしい顔と盛り上がってしまってな。」
「懐かしい顔だと? …ん、君は…もしかしてセオドールか!」
「…あ、ああ…。」
「すまない、立派になっていたから一瞬わからなかった。そうか君と話していたのならば仕方がないな。久しぶりに出会えて、私も嬉しい。」
「そ、そうだな…。」
怒涛の展開でむやみに力強く差し出された右手は、握り返す以外の選択肢はない! と主張していた。
「や、ちゃんとツッコもうぜその格好。誰とか何とか、俺聞きたくても聞けなくなるからよ。」
ジェクトしかツッこむ馬力は持っていなかった。
「おお、こやつがライト。セオドールが高校に通っていた時の生徒会長だ。」
「おー、おめーさんの相方か。」
「君はザナルカンドエイブスのジェクトだな。試合、楽しませてもらっている。」
「お、おう、こいつぁどーも。」
だからどーして差し出される右手まで真っ当に程があるカンジなんだよと、ジェクトもちょいとだけ引いていた。でもやっぱり握るしかなかった。
「積もる話もあろうが、今日はお暇させてもらう。夕飯が冷めるのでな、また今度。君も幼い兄弟がいるのなら早く帰りたまえ。帰るぞガーランド。」
「うむ。」
「え、ちょっとまてあと1コだけツッコませておめーらどーゆー関係なの状態なの!」
光速で去っていく状況に、ジェクトが必死こいて追いすがる。
「ああ、こやつワシの家に居着いておってな。家事全般を担当しておる。栄養から体調から管理が万全なので重宝するのだ。」
「居着いているとは誤解を呼ぶ表現だ。部屋代は折半している。光熱費も生活費も、全てを。」
「あー、判った判った。ワシが悪かった。そういうわけでまたなお前たち。近いうちに呑みにでも行こうぞ。」
「お、おう。」
と、まあ光のように、おかんのような美青年と野獣の夫婦は去っていった…。
「…えーと…」
セオドールを見る。見られたセオドールは物凄く…げんなりしていた。わかりやすく。
「…変わらないな…万事が万事あの調子でな… ガーランドくらいしか…制御できなかったのだ…。」
「…なる……。」
「正直…苦手だ……。」
「わかるわー。」
「…にいちゃん、面白い知り合いたくさんいたんだね…」
「正直、忘れたい。」
夕日がとても綺麗な黄昏時だった。
おまけ2
『おーっとジェクト! 華麗なサイドステップから低い姿勢中へ切り込む! そのままシュート! 決まったぁぁ!!!』
『ムダのない動きですねえ。ジェクトはまたひと皮剥けたような気がします』
居間。テレビの前なう。
「…ジェクトのやつ…運足をマスターした…だと…!?」
「すごーい……」
出ただけで主役をかっさらうリーダ万歳。
ジェクトに勝ち、ガーランドにまで勝ち星を上げてしまった兄さん、以降学内で新たな称号を得ることになる。
『男に聞く、抱かれたい男No1。』
…て話で拍手と拍手お礼で盛り上がったww 攻度があがっちゃったぞオイ!!www