無謀にも程があるこっちゃんSS 3

 

 あれから1年くらいがたったでしょうか。
 セオドールはだいぶ小さくなりました。
 いいえ、私が急に大きくなったんですね。1カ月くらいは彼の両腕におさまるくらいの大きさだった気もしますが、私が飛び方を覚える頃にはすっかりはみ出るようになって、今では彼の左肩の上が私の定位置です。それでも最近は重たそうにしているので、ちょっとだけ浮いてなるべく彼の負担を減らすようにしています。本当は離れて飛べば良いのですが、それは嫌です。

 最初の頃は、里の人たちにずいぶんと怖がられてしまいました。なにもしていないのにと随分悲しい思いもしたものですが、ある日セオドールのお父さんがいない時に里にモンスターがはいってきてしまい、私が追い返したらそれ以来、ちょっと私に優しくしてくれるようになりました。
 本当はセオドールがちょっと危ない目にあったので、怒って噛み付いたんですけど。他の人はもののついでですとも。
 それでも、あまり頻繁に里に付いていくと少しびっくりされてしまうので、最近は彼のおでかけにあまり付いていかないよう我慢しています。自由にしていいのはおうちの周りと里の外。それ以外はこうして納屋にあつらえてくれた自分のお部屋で彼が来るのを待っています。そろそろ出してくれるごはんじゃ物足りなくなってきたので、自分で狩りをするのも覚えなきゃいけないかしら。
 人間はたべませんよ。御心配なく。

 彼のお父さん曰く、私のような黒い竜はとても珍しいのだそうです。突然変異で産まれるらしく、強くて、とても賢いのだとか。私は私以外の竜を見たことがないのでなにがどう珍しいのかさっぱりわかりませんが、二人きりのときセオドールが「僕とおなじだね」と言ったのでちょっと嬉しくなりました。すこしだけ寂しそうだった彼の表情が気になったのですが。

 それにしても、今日はセオドールが来るのが遅いです。いつもはもうお外に遊び…と言ってますがが実は内緒の魔法の練習にいく時間のはずですが、どうしたん でしょう。お天気も良さそうだというのに。少しそわそわして、私は身体を巻いたまま尻尾で2、3度ぺちぺちと地を叩きました。敷いてあった藁が宙に舞い、ちょっと面白いです。
「黒竜!」
 がたん!と大きな音をたてて扉が開きました。待ちに待った声に私は伏せていた顔を勢いよく上げます。すると、満面の笑みを浮かべたセオドールが突然私に飛びついてきました。とても嬉しいのですが、最近私の鱗もすっかり固くなって痛いらしいので、怪我をしたりしていないかちょっと心配です。でもどうしたんでしょう急に?
 顔をよせて訊ねてみると、まるで言葉が通じたかのように元気良く答えが返ってきました。
「僕に兄弟が産まれるんだよ!」
 きょうだい? きょうだいって同じお父さんとお母さんから産まれた子のことでしょう。おうちに卵なんてあったかしら。私は首をかしげました。
「お母さんのおなかにいるんだ! 弟か妹かわからないけど、僕に兄弟ができるんだよ!」
 そう言って嬉しそうにセオドールは私をだきしめました。人間って卵からうまれるんじゃないんですね。ひとつ賢くなりました。それはおいておいて、本当ならとてもおめでたいことです。
 彼はいつも自分が人とちょっと違うということをすごく気にしていました。髪もこまめに染めなければすぐに色が落ちて銀色になってしまうのだそうです。銀色の髪のセオドールはとてもとても綺麗だと思うのですが、それはこの里やミシディアではとてもとても珍しすぎておかしな目でみられてしまうのだそうです。
 それにお父さんやお母さんには内緒にしていますが、前に危ない目にあってから彼はとても魔法の練習をして、本当はもう沢山の魔法を使えるようになったのです。ケアルなんかはどうしても相性が合わないらしいのですが、それでも彼くらいの年でこんなに魔法を使えるのはとても珍しい事なのだそうです。「きっと世界で僕だけなんだよ。」寂しそうにそう言っていたのをよく覚えています。
 きょうだいが産まれたら彼は一人じゃなくなるかしら。それはとても嬉しい事です。おめでとう、と伝えたくて私は彼の頬をべろりと舐めました。
「へへ、ありがとう!そういうわけで今日は魔法の練習中止な!」
 え?じゃあおでかけはしないのかしら?
「産まれてくる子にお守りをつくってあげたいんだ。だから材料を探しにいこう!まだまだ先の話だけど、のんきにはしてられないしね!」
 内緒だぞ?と彼はいたずらっぽく笑いました。そう言う事なら納得です。私は一声鳴いて飛び上がり、するりと彼の左肩におさまりました。
「よし、行こう!」
 そう言っていつも以上に元気に走り出しました。
 途中で「それにしても、父さん元気だなあ。」と呟いていたのですが、私はよく意味が分からなかったので首を傾げるばかりでした。

 セオドールはとても物知りだとおもいます。

 

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こっちゃんのサイズどれくらいなのか想像しきれてません…
DFF兄さんのサイズがあまりに巨体過ぎて、巻きついてるこっちゃんのサイズがやけに小さく見えてしまうのですが、でかいよねえ普通に考えると。
竜の設定はテキトーなので少々の矛盾はお好みで脳内補完よろです。
多分凄く気性は荒いんだと思います。
セオドールとその家族以外どーでもいいという発想は、後の主の感性とよく似ていて我ながら素敵ですとも。