あたし?生まれは多分ここよ。トロイア。あたしを産んだ女もご多分に漏れずこんな商売しててね。でもまあ、かなり上玉だったらしいのよ。一時は女王って呼ばれてた事もあったらしいわねぇ。
え?裏町のナンバーワン娼婦をそう呼ぶの。まあ、トロイア裏の大貴族みたいなモンかしら。ちょっと違う?まあ、固いコト言わないでよ。滅多にお目にかかれず話もできず、お近づきになるには莫大な貢ぎ物が必要だ、って点では同じだからさぁ。
表はって? 町の公園通り中心にいっぱい連なってるでしょ、お店。あの辺がオモテ町。そう呼んでる。あっちは国家公認のあくまで観光事業のサービス店だから、同じ水商売でもウリ禁止。良くておさわり。似ちゃあいるけど別世界。でもさぁ、男なんて結局ヤりたくてこの街に来るわけだからさぁ、いくらお固い神官サマたちが売り買い禁止したところで、あたしらみたいな裏商売は消えないのよねぇ。むしろトロイアの本体はこっちよ間違いなく。あ、カンケーない話になっちゃったわねぇ、ごめんごめん。
親の事? んー別に嫌いって程じゃあなかったけど。殴られた覚えはないけどあやされた記憶もないかな。メンドーだったんじゃない? 実際あたしも面倒だと思うもん今。子供とか、絶対ゴメン。ま、食べさせてくれただけマシじゃない? 捨て子の死体なんて裏町にはゴロゴロしてるしさあ。ま、でもさ、子供の頃は子供の頃なりにこんな商売嫌だったわけ。ンでさ、ある日家を飛び出してテキトーにどっかの船もぐりこんでさ。幾つのときだったかしら。15…いや18くらいかなぁ。年なんかちゃんと数えちゃいないからねあたしら、大体サバ呼んで言うもんだし。
ああ、それでね、難破したのよねぇその船が。アタリ悪いでしょ。業よねぇ。あたしは密航だからさ、木箱ン中入って隠れてたの。そのおかげで浮いてさあ。流されてついたのがエブラーナだったのよね。今思うとそこは運がよかったわ。どう流れたンだか南側に漂着してねえ。あっちの方はほら、ジェラルダインが統治してるからわりと治安いいのよあの島ン中じゃ。って知らないか。
で、たまたまアタシを見つけたのが王家直下の忍び一族の頭目でねえ。これ幸いとふふふ。口八丁でだましたわよ。身売りされるところだったんですぅ、って。
そんなんうまく騙せたのかって? あったりまえじゃない。忍者ったって男はオトコだもの、あたしにかかればちょろいもんよ。で、テキトーにつくったお涙頂戴ストーリに心打たれた頭目があたしを育ててくれたわけ。もちろん、くのいちとしてね。知ってる?女忍者の事あっちではそう言うの。
あれ、知ってるんだ。お客さん物知りねえ。
え、お客じゃない? あっはっは! まあそうなんだけどさ、これクセね。商売柄。あんまり深くとらないでよ。「お兄さん」とおんなじ意味だからさ。まあ、そんな訳であたしああいう術が使えるワケ。
忍びの生活? けっこー楽しかったわよ。あっちもさぁ、いちおう女の武器を使うやり方っていうのはあるのよね。だけどさ、あたしに言わせりゃユルいユルい! 基本的にただプライド高いだけの女多いからさ、男を取り込むのヘタなのよね。ただの色仕掛けと男を籠絡するってのは全然違うのよ。その辺がわかってない。こちとらそれでメシ喰ってたんだからさぁ、負けるわけないじゃん? ああ、ウリなんてとっくにやってたわよ。たしか11の頃からだったかしら。あたしほら、絶世の美人だから。
え、どう落とすのかって?簡単簡単。落として、持ち上げればいいの。
貶して、蔑んで、ドン底に叩き落としてちょっと救い上げる。あたしくらいの貫禄があればそれだけで充分よ。もう男はあたしの虜。ああ、別にネタバレたってどってことないわよ。分っててもかかるもの。人間って馬鹿よね。あー、でもお客さんは無理そう。アタマよさそうだし。お客さんいい身体してるし、むしろやれば出来そうに見えるわね。あはは!
でー、1年ちょいくらいでくない短剣と風の忍術くらいは覚えたわよ。さすがにやることは搾ったけど、それにしたって才能よねえ。まあ、一番の才能はエブラーナの若様を落としたってコトだけど。
ああ、勘違いしないでよ。惚れた腫れたなんて野暮な話じゃないわ。いい男は食う。それがあたしのステータス。ま、あっちは多分本気だったと思うけどね。まだまだ中身は子供だったけど、将来いい男になるわねあれは。
ん? なんで今ここにいるかって?ま、それもあたしの才能のせいね。アレよ、出る杭はなんとやら。
実はさ、頭目があたしに本気になったの。
馬鹿でしょ。バカみたいでしょ。当然妻子持ち。諜報活動集団のアタマよ、あんたが落とされてどうするって話よ。
あんまりバカだから教えてやったのよ。あんたに話した過去は全部嘘だって。あたしはただの娼婦崩れだって。
そしたらそいつ、あたしを組み敷いてなんて言ったと思う?
『俺を騙すとは大したものだ。それもお前の才能だ。その嘘を本当にしてしまえばいい。俺はお前を愛している。』
馬ッ鹿くさくてさ。言ってやったわ。
『立場の上下も弁えられないカス男に用はない』ってね。
そしたらもう逆ギレ。いいだけ部下つかってあたしを消しにきてさあ。めんどくさいからそいつの寝首かいて、こっちに帰ってきたってぇワケ。若様にはちょっと悪い事したけどね、まあ潮時だったんじゃないかしら。色々面白い経験させてもらったわ。
帰ってきてからここまでは一瞬だったわね。女は血を浴びたら美しくなるって案外本当かもね。美貌に一層の磨きがかかってたから。一月もしないうちに、あたしはトロイアの「女王」よ。
母親?
死んでた。
ま、ちょっと悪い事したかなとは、思ってる。
反省はしてないけどね。
「ねえ、あたしの身の上話なんか聞いて楽しい?」
散々話した後に今更、と自分で思いつつも、アリシアはお客…あの銀髪の男にそう訊ねずにはいられなかった。
「中々興味深い話だった。礼を言う。」
「んー、別にそこまで言われる程のものじゃないけどさあ。」
一人、自宅のベッドの上で半裸状態のままだらしなく寝転がりながら、アリシアはそう返した。不思議と嫌な気も悪い気もしないが、勝手が違って調子が狂う。
いつもの様に服を脱ぎ、下着姿で「好きにしていいわよ」と、最上級の客にだけ告げる特上の台詞を吐けば、男は「お前がどこでその力を身に着けたか話してくれ」と返してきた。唖然とした。男は自分には指一本触れず、近くにあった椅子を引き、そこに静かに座っただけだった。
口数は少ないのだが不思議と話を引き出すのが上手い男で、気がついたら自分の過去をほぼ洗いざらいしゃべっていた。いつもいいように男を手玉に取ってきた自分がそれを取り返されたようで、ちょっと悔しい気もする。
「それで、あたしと寝ないの?」
もう一度誘ってみる。
「私は客ではない。」
男は座ったままそう答えた。
「お金なんか取らないって言ってるじゃない。」
「無理にする事でもあるまい。」
「そりゃそうだけど。」
調子が狂う。トロイアの女王の裸体を前にしてこれだけ心を動かさない男など初めてだ。そして落ちない男こそ、自分に堕として引き込みたくなる。それがアリシアの性分だ。それが魔性を呼び伝説を作り、彼女を女王にのしあげたのだ。
ベッドから起き上がり、男に近づいた。殊更ゆっくりと。隠そうともされない豊かな乳房が揺れる。腕を組み座る男の前に立つ。妖しげな所作で、白く細い指が、揺らがぬ男の頬に触れた。
やはり、男は動かなかった。
「好きな女に操を立ててるっていう風にも見えないんだけどねぇ。なんか俗なカンジしないし。」
「俗世間とは随分離れていたからな。だからこそ、お前の話はなかなかに楽しいぞ。」
「そう。」
ニヤリ、とほんの僅か不敵な笑みが男から溢れた。心の奥が射抜かれるような、不思議な紫の瞳だった。その目は、自分の身体に一瞥もくれる事はなかった。
これは、敵わないわね。
強者は強者を知覚する。
それが判らないアリシアではないのだ。
手を下ろしが。ベッドに戻り布団に入った。
「ねえ、こっちきてよ。布団にはいって。抱かなくてもいいから。」
「お前の誇りに関わるのではないか?」
「まあ関わるけどさ、今日はいいや。お客さん、お客じゃないし。なんか人恋しいから付き合ってよ、話の駄賃だと思ってさぁ。」
「そう言われると、私に断る資格はないな。」
そう言って、男は漸く重い腰を上げた。
上半身だけ衣服を脱いだその身体は、戦の国エブラーナでも見た事が無いような見事な造形だった。生唾を飲みそうになる自分からアリシアは目をそらし、堪える。遠いと思えば手に入れたくなる。とはいえ、まさか自分がこんな反応を示すような男など、この世に存在するとは思わなかった。男が布団に入る気配がする。
そのまま、自分に背を向けた。本当に抱く気はないようだった。
久方振りにあの国の事を思い出す。
こんな男が上司だったのなら、自分はずっとあそこにいられたのだろうかと、詮無いことを思い、アリシアは眠った。
読み返すと好き勝手にも程があるな。
この頃のFFは、想像を超えた捏造の余地が沢山あっていいよよね! エッジごめん!!(;´∀`)
基本、ゴルさまはストイックの権化だと思っています。身体的ではなく感情的に。
性欲とか色恋とかそういう感情がポコンと抜け落ちてるレベルの。
え、じゃあカインのあれなんだって?
打算だよ打算。でもそのうち死んでた筈の情を思い出しちゃって、打算超えちゃったっていう。そういうゴルカイが… あれ、これ何のSSだっけ?
ゴルセシは180%情だけです。この極端さが兄のミリキ。
2010.7kuuさまより挿絵追加。
若バロスwwwwwwwww