パロムとカインとゴルベーザ 2

 

 (…でけぇ。)
 先の大戦では彼もまた当事者の一人ではあったが、幸か不幸か「ゴルベーザ」と直接相見える機会はなかった。さらに此度は真月に来るまでシヴァから受けたダメージを回復するのに専念し、青き星では彼と共に行動していない。今、多分初めて正面からかの魔人を見据えたパロムの感想は…それだった。
 一人の母体から供給される栄養を二人で分け合う双子の宿命で、パロムの身長は同年代の少年と比べて大分小さい方だ。それが、ただでさえ長身なセシルの一回りどころか三回り位でかいこの男とならんでしまえばそれはもう、見上げるとかそう言う表現で収まりがつくレベルではない。ここまでくると魔物と比較しているようなもので、コンプレックスとかそんなものもどうでもよくなってしまう。
(つか、魔導士の体格以前に人間の体格じゃねーよ)
 ただ、じっと見下ろしてくるだけで滲み出る威圧感に抵抗するため、努めてその方向に思考を逃がしているのだということは、彼自身自覚していない。

「…如何した」
 静かに、低い声を発したのはゴルベーザが先だった。パロムは思わず身を竦める。一歩下がりそうになった自分を叱責し、どうにか踏みとどまった。
 カインに煽られ、聞かれていたと知って、それで逃げるのは己のプライドが許さず、意地だけでパロムはかの魔人の前に立ちはだかっていた。
 言いたい事は山ほどある…はずだった。だが、出てこない。ギルバートやヤンが、エッジやカインが、皆がどうして何も言わないんだとそれは叫びたい。叫んだ。だが、自分がゴルベーザに対して何を言いたいのか、それはまるで考えていなかった事にたった今パロムは気がついた。
 不自然な間が開く。たっぷり20秒以上パロムが悩む間、ゴルベーザはただ黙ってそこに立っていた。
「…なんか言う事はねーのかよ…」
 悩み抜いて出た言葉が、これだった。ゴルベーザは軽く首を傾げたような仕草を見せ、静に訪ね返した。
「…何か、とは?」
 すっとぼけてる。そうとも取れる言葉に、瞬間パロムの心は沸騰した。
「っ!何かじゃねーだろ! てめぇ自分のしでかした事がどーゆーことかわかってんだろ! それに対してみんなに言う事ねえのかっていってんだよ!!」
「…済まなかった、と。頭を下げればお前は満足するのか。」
 静かに、そう言われた。それは開き直りなどではなく、そんな事ではどうにもならない現実を見据えた上での言葉。ふいに「魔導士とは常に冷静でなければならない」とレオノーラに諭した自分の言葉がよみがえる。パロムは唇を噛んだ。
「それで気が済むのなら、幾らでも下げよう。」
「済むわけねーだろ!!」
 だけどそんな理屈、今の自分を止める枷には全くならなかった。

「たとえみんなが済ませたって…俺がすまねーんだよ!!」

 もう、頭で言葉は考えていなかった。
「なんだよ今更出てきてこれみよがしにあんちゃんの前に立って! 保護者ヅラして! 俺たち今までずっとあんちゃんの横にいたのに、それなのにあの人は全部ひとりで抱えようとしてなんにも俺たち頼りにしてくれなかったんだぞ! なのになんで…なんでポッと出のアンタがあっさりその場所かっさらっていくんだよ!!」
 何言ってるんだろ俺。
 僅かに残っている冷静な自分がそう言う言葉も、まったくもう一人の自分のブレーキにはならない。

「俺は認めない、お前なんか認めない。あんちゃんは命がけであんたと闘って俺たちを、この星を助けてくれたんだ! 今度は俺が賢者になってあんちゃんを助けるんだ、そう決めたんだ! お前なんかに…今更負けるかよ!!」
 最初の目的と全然ちがうじゃん。なんだよそれが本音かよ。
 妙に冷めた自分がそう言って飽きれていた。ガキくさい、もう引っ込め。そう冷静に諭す前に、それは当のゴルベーザによって…完全に吹き飛ばされてしまった。
「ならば、如何する。」
 笑った。そう言って。
 それで完全に、パロムに火がついた。
「…決まってんだろ。」

「あんたをブっ倒す!!!」

 ゴルベーザが自分の宝飾石を一つ千切り周囲に結界を張ったのが見えていたが、もうパロムにはどうでもいい出来事だった。

 

 閃光が黒衣に向けて飛ぶ。稲光が自然の法則に逆らうように横に走った。轟音と共に直撃するも、それで終るだなんて到底思えない。終るんだったらとっくにあの男は死んでいる。セシルが不在の間、その薄衣のどこにそんな防御力が、という勢いで全ての攻撃を一手に引き受けてきたような男なのだ。どう贔屓目に見てもそこまで力があの襤褸切れにあるとは思えない。だったら、それは本人の力だ。
 魔導士はレベルが上になる程、自身の魔法防御力もあがっていく。パロムには判っていた。この男の場合はもう、魔法防御力というレベルじゃない。障壁と言って差し支えないものだった。常にプロテスや、微弱なリフレクを纏っているようなものなのだ。生半可な威力ではまともなダメージは与えられない。
 案の定、煙幕の切れ間から黒い影がちらりと見える。それが気流に流れきる前に、パロムは次の詠唱を終えていた。
「ファイガ!!」
 パロムの詠唱は早い。幼い頃から事あるごとに「罰として呪文の書き取りじゃ!」と言われ続けた成果なのか、今ではそれをいちいち口に出す事なく、ほとんど脳内でなぞり終える事ができてしまう程に、その呪言はパロムに叩き込まれている。魔法の早撃ちならミシディア…いや世界中見渡したって自分に勝てるものはいない、そう思っていた。
 この男が現れるまでは。
 炎は、全く同量の氷塊によって相殺されていた。
「…ち。ムカつく。」
 無詠唱なのだ。完全に。
 そのうえこれみよがしにパロムの魔法の威力と完全に合わせてくる。パロムにとっては喧嘩を売られているに同然の行為だった。
「何様の、つもりだよ!!!!」
 ブリザガを投げつけるようにして放った。それはパロムの感情に共鳴するかのように形を変え、鋭い槍となって次々とゴルベーザに襲いかかる。
 詠唱もなにもなかったことに、パロム自身は気がついていない。
 ゴルベーザは目前に障壁を展開させる。それはプロテスのような盾型ではなく流線型。氷の槍は次々とそれに衝突する。幾許かは砕け散り、障壁にヒビをいれたものの…ほとんどはその力を外に逸らされ、背後の結界壁にぶつかった。
 最後の一つが障壁と相打つかのように砕け散り、形を失った二人の魔力の輝きと共に、静寂が辺りを包んだ。


 すげえ。

 パロムの中の冷静なパロムが感嘆した。

 無駄がない。ひとつも。
 動きも、魔力も、最小限のもので最大の効果を生み出している。
 魔法は強く放つことよりも微細な制御をする方が難しいことくらい、パロムとてよく知っている。
 知って尚見掛けを追及して、今まで唯ひたすらに大きな威力を目指してきた自分とは違った。

 これが、魔人ゴルベーザかよ。


 あの、セシル達を最後まで苦しめた伝説と言っても差し支えない力の片鱗を
 今確かに、自分は目の当たりにしているのだと、漸く彼の理性が理解した。

 パロムの中の熱いパロムが疼く。

 だからどうしたと。
 だったら

「なおの事負けらんね―――よ!!!!」
 もう、理屈は関係なかった。
 ただ目の前の強敵を倒したい。超えたい。
 戦士の闘争本能だけが、彼の魔力を爆発的に上昇させた。

「!」
 身構えるゴルベーザの横で、きらりと何かが光った。目だけで見回す。幾許もたたないうちにそれは無数となっていた。次いで急速に下がっていく気温。輝く粒子は見る間に大きくなる。それは結晶へと昇華した水蒸気だった。
「おおおおお!!」
 吼えるパロムを見ると,そこに逆巻くのは冷気の渦。形状を持たない冷気は己の身を裂く。が、それをも気にかける事もなく、見る間に魔力は圧縮されてゆく。
 ゴルベーザは僅かに目を見開いた。内心、驚いてもいた。自分の知る限りミシディアではこんな魔法の扱い方は教えない筈だ。冷気の魔法と言うのは、炎や雷と違い、形状と言うものを捕らえにくい。温度というものがどういった作用で変化するものなのかを未だ知らない青き星の民が無闇に振えば、暴走し制御不能に陥る可能性がある。だから、氷や氷結という目に見える形として教えている筈だ。
「…超えたか」
 ゴルベーザがどこか嬉しそうに呟くのと、パロムが渾身のブリザガを放つのは同時だった。

 冷気が見えない刃となり身を切る。温度という形状をとられると、障壁ではガードが効き辛い。鎧を身に纏わぬゴルベーザの肌に次々と裂傷が浮かぶ。だが、それ以上に大きなダメージを負っているのは術者本人だった。
 少なくはない鮮血が冷気に混ざってくる。この形状の術に慣れがないのだ、制御しきれていない。力づくで止めるかとゴルベーザが前方に出た時だった。
「まだだあああ!!!」
 ブリザガを放つ左手はそのままに、パロムの振り上げたロッドが光った。

「サンダガぁぁぁ!!!!」

「!!」

 パロムは体験で知っていた。冬、気温が下がった日。もしくは冷気の呪文で体温が下がった敵。そういう条件で雷撃は普通よりもずっと強力な威力を発揮する事。
 だからいいだけ温度をさげて、それから魔法が消える前に極大の雷を放つ事ができれば、きっとあの魔人だって倒せる。前々から思いついてはいた。だけど成功した事はなかった。失敗する自分なんて誰にも見せたくなくて、この旅の中では試した事がなかった。
 そんなこと、今はどうでもよくなっていた。形振りを構わず放たれた連続魔法は、目も眩むような閃光を伴い意表をつかれ立ち止まったゴルベーザに向かう。そして

 次の瞬間、空間に縦横無尽に雷光が飛び散った。

「え?」

 バチン、と、パロムの中でなにかが弾ける感覚。
 しまったMP切れだ! コントロールできない!!
 そう思ったときには雷は完全に術者の制御を離れていた。

 激しく行き交う稲光は結界内部を縦横無尽に駆け巡る。ぶつかり、散り、時に一つとなりその一閃が

 パロムに向かって落ちてきた。


 死んだ。

 ああもう馬っ鹿じゃねーの俺。
 勝手にキレて喧嘩しかけて、挙句魔法の暴走で死んだった間抜け極まりねーよ。

 またポロに殴られんな。
 丈夫な結界あって良かったな。

 レオノーラは無事だもんな。ならいいか。

 

 黒い影が、目の前を塞いだ。


「黒竜!」

 その声と共に現れた黒い竜は、雷光の隣に一直線に冷気のブレスを吐いた。それに沿うようにゴルベーザが自身で雷を放つ。稲光が吸い込まれるようにそちらに動いた。そのまま竜が首を振る。冷気は渦巻くように上昇し、次々と雷光がその中に集約される。
 そして一塊になったそれは一つ、激しい爆音を上げて、散った。
 同時に響く衝撃で、結界が砕けた。

 

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バっトルを書くのはたのしいなー( ´∀`)〜♪
描くのも好きだけどそっちは画力がおっつかないの〜♪

あと、物理には当然ちゃあ当然ですが詳しくありません。そのあたりのツッコミは野暮ったくない程度にお受けします。

大事なので何度もいいますが、兄さんは子どもが大好きです。そしてこの手のタイプをあしらうのが大得意です。(と、勝手に思っている)
あと、兄さんの全力はDFFのレベルだと思っています。