チームAdalo

 

 海に入るなんて一体何時振りだろうとセオドールはぷかりと浮きながら、そんな事を考えていた。
 小さい頃はそれこそ肌が弱く、日差しの強い夏の海など行きたくても行けなかった。中学校に上がる歳にはそれも克服したのだが、その頃にはセシルが産まれていた。弟が物心付く前に自分と同じように肌が弱いと判り、一人セシルが寂しい思いをしないようにと積極的に外に出ることを止めた。
 だから、学校行事かその間の僅かな期間、当時の数少ない知り合いと(友人と呼べる程親しい間柄だったとは思えない)1、2度出かけたくらいじゃないだろうか。
 そりゃあ、家族で行きたくなかったかと言われれば行きたかった。小さい頃は無邪気に夏休みの思い出作文を「家族で海に行きました」と読み上げる同級生が 羨ましくもあった。それでも、自分には縁のないものなのだと諦めてはいた。ませていたのだ。途中飛び級もして直ぐに中学生に混じり勉強をしはじめたから、 幸いそういった作文を聞かされる機会は少なかったのだけれど。
「判らんものだな。」
 夏の日差しにはまだ早い青空を見つめて呟いた。
 どうあれ、セシルにこういう体験をさせてやれたのは良かったかもしれない。その点はジェクトに感謝しようと、首謀者の姿を探した。瞬間。
「!?」
 思い切り、足を引っ張られた。がぼりと、抵抗する間もなく頭まで海水に浸かる。一瞬上下感覚を失った。
 何事かと無理矢理目を開いて足元を見れば、そこにいたのは長髪の、やたらワイルドな海坊主だった。全力で蹴ってやろうとしたが、鮮やかに避けられた。
「・・・っかは! なんだお前は!!!」
 浮かび上がってから目を開ければ、海坊主は既に悠々とその辺を泳ぎ回っている。なんという間の悪い男だろう。これでさっきの感謝は帳消しだ。
「ぼけっとしてっからだよ! 隙だらけじゃねえか!」
 がはははと、年に似合わぬが容姿にはやたら似合う親父臭い声で笑った。なんというか、銛でも持たせればその辺から魚を捕ってきそうな姿だ。海水浴じゃないなこいつのはと、そんな風にセオドールは思った。
「海にまで来て深いこと考えんなって。そんなに沈みたきゃ海に沈めよ。綺麗なもんだぜ?」
 そう言うだけ言って、新手の海坊主ことジェクトはするりと海に潜る。地元というだけあって相当泳ぎには慣れているようだ。水場は不利だな、などと冗談紛いに思いつつセオドールも海底見学をするべく潜ろうとした矢先だった。


「いでえええええ! つったあああがうぼぼぁ!!」

 絶叫が響いた。同時に人が沈んでいく泡音が。
 何事かと周囲を見回すと、音の主を見つける前に、今度は突然後から羽交い締めに抱かれた。
「うわあ!?」
「大丈夫かセオドール! 悪かった遊びすぎた!!」
 海坊主だった。冗談抜きの本気で驚いて、ものすごく珍しい叫び声をあげてしまった。
「ばっ・・・私じゃない! 落ち着け!!」
「あ?」
 おもいっきり腕を突っぱねて、力ずくでジェクトを引きはがす。本気で心臓が早鐘を打っていた。当のジェクトは一瞬ぽかんとしたあと、くるりと周囲を見渡す。
 と、子供の姿が見えた。かなり、沖合いの位置で。
 二人顔を見合わせ、直ぐにそちらに泳ぎ始めた。

 

「いやー、マジ助かったぜ。せんきゅー!」
 と、浜辺で頭を掻きながら飄々と言うのは先ほどの子供・・・ではなく、その、保護者だった。
「せっかくビサイドきたんだから全力で泳がねーとと思って速攻海入ったんだけど、準備運動ナシってのは駄目なもんだなー。俺も年かねー、ガキの頃はぜぜん何ともなかったんだけどな!」
 からからと陽気に男は笑った。ジェクトとセオドールは、ぽかんとしてそれを見ていた。

 ジェクトが引き上げたのは黒い長髪の青年であった。年の頃なら自分たちとそう変わらないように 見える。ジェクトは親父臭く見えるし、セオドールは口調がませているだけで若いから、実際は間くらいに見えるかもしれないが。顔はかなりいい方なのだが、 どうにも話す言葉に馬鹿っぽい印象があるため、あまりそれを感じない。
 そして何よりよく、喋る。ジェクトも喋る方だとセオドールは思っていたが、そのジェクトが一切口を挟めないくらいに喋る。まるでマシンガンか何かのようだ。
 対して、少し離れた位置で座るセオドールが保護した少年は無口だった。他人です、と言わんばかりに。斜め下を向いて。
「あー・・・準備運動ナシってのは意外と危ねぇもんだぜ。」
 なんとかジェクトが会話をつなげる。ペットボトルに入った水を渡せば、どもども、と言って青年はそれを飲み干した。
「ぷはー生き返ったぜ! あ、俺ラグナ。雑誌の取材でこっちきてる未来の大ジャーナリストだ。よろしくな! そっちの子は甥っ子のスコール。」
 聞いてもいないのに自己紹介はまあ助かるが、「大」ジャーナリストというのはどういうものなのだろう。ジャンルが広すぎやしないかと思いはしたが、突っ込 むのは面倒だとセオドールは流した。スコール、とよばれた少年を見ると俯いていた。恥ずかしいのだろう。色々と。
 なんだか物凄く、同情した。
「ま、まだ請け負いアルバイトのペーペーなんだけどな。精々見習いライターってとこか。」
 理想と現実のギャップを明るくラグナは笑い飛ばした。どうやら基本的に爽やかな好青年ではあるらしい。
「なる程な、それでシーズン前のビサイドにいるってわけだ。」
「そそ、そーゆーこと。今年の夏のために情報は先取りしないとな!」
 が、どうにも口調が子供っぽい。人のことは言えないが色々と損をしている男だなと思う。が、巻き込まれたくないのでやはり口には出さない。
 ジェクトが腕を組んだ。
「そうかそうか。おめぇ、えれぇついてるぜ。本当に大ジャーナリストになれっかもな。」
「お?」
 ジェクトが楽しそうに、ラグナとは対照的な野性味たっぷりの笑い声を上げた。少しだけ、セオドールに嫌な予感が走った。
「俺様がビサイドを案内してやろうじゃねえか。このザナルカンドエイブスの大エース、ジェクト様がな!」
「おおお―――! どっかで見たような気がしてたんだよ! マジか――――!」
 絶対嘘だろお前このくどい顔は一度見たら然々忘れるものじゃないぞ! あ、いや畑違いのジャンルということもありうるか
などと、思っていたら。
「よっしセオドール行くぞ!」
「は?」
 逃げそびれた。
「ああ、こいつはセオドール。俺の母校の大」
「黙れ脳筋私は只の一般人だ!」
 天才、とでもつけようとしたのだろうそれを、全力で遮った。冗談じゃない、大ジャーナリストに大エースなんて、そんな恥ずかしい集団に加えられてたまるか!
「な、なんだよ急に怒鳴ンなよ、珍しいな」
「怒鳴りたくもなる!」
 と、そこまで言って気がついた。この無口な少年は事態を半ば予想していたな。初めから全力で回避するために口を開かなかったのだろう。聡明だ。いや懲りているのか?
「おーおー、友達大歓迎だぜ! こういうのは人数多いほうが楽しいからな! よっしスコール、お前も」
「俺は旅館に戻る。レインとおねえちゃんに説明しておくから、ラグナは行ってくればいい。」
 鮮やかな回避行動だった。実に聡明だった。
「そっか。まあそうだなあ〜、説明は必要か〜。」
 おいおい明らかに拒否してる甥っ子に丸め込まれているぞ! と、心で大人二人は突っ込む。
「じゃ、頼むぜスコール。旅館まで戻れっか?」
「問題ない。」
「OKしっかりもので可愛い甥っ子だ! じゃ、いってくらあ!」
 そう言って無駄に勢いよく、砂を巻き上げ立ち上がった。そして更衣室に走ろうとするラグナに
「ラグナ。携帯忘れてる。」
「おお! わりーわりー!」

 どちらが保護者だか判らなかった。

 

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ちょっとジェクゴルを目指してみました!がんばった俺!!(笑)

うへへへへついに出しちゃったよラグナ君。
俺の欲求に忠実すぎるぜこの現パロシリーズ!もうDFFですらねえ!!!(うp当時DDFF発売前。神よありがとう。)
んでもラグナ君書いたの久々だから、細かい口調とかがちょっと自信なかったりして…。

このシリーズ、あくまで兄さんを基準に書いております。それに付随する形で子供メンバーが決まっているので、お子様ラインナップ大変愉快なメンツになりましたw
子スコがあんまりにしっかりしすぎているのは、原作設定に準じると意外にティーダと被ることに気がついたから…。本当はもっと可愛い子だったのは知っている!! 知っているんだ俺の腕ではがどうしようもなかったんだ!
なら中途半端やるよりは、とDFFに準じたキャラ付けに致しました。やっぱりラグナくんにちょっと冷たくあってほしいし(笑)

ラグナ君は23くらいのイメージでいます。
ラグナ一家大好きだから本当はフツーにそういう設定にしたかったんだけど、ティーダと同じ年として「17の時の子とかねえよwwww」と思い、苦肉の策で 叔父甥関係に落ち着かせました。ジェクトさんは学生できちゃった婚でいいけど、ラグナとレインはもっと純愛がいい―――!!!(゚Д゚≡゚д゚)

兄馬鹿・親馬鹿・叔父馬鹿トリオでちょうどいいかな、なんて…。だめ?(´・ω・)゛ ←伝説の角度

 

 

あと、ジェクトさんを馬鹿だ馬鹿だと罵る兄がけっこう好きです。
そんなこといえるのは好きだk