チームChildren

 

 浜辺に戻ると、そこはもぬけの殻だった。

 見事に、誰もいなかった。
「…つかえねえ親父…。」
 心の親父株を下方修正したのちティーダは反転し、再び駆け出した。

 

 

 全力で旅館に駆け戻ったティーダが部屋の扉を開けると、そこに母親はいなかった。
「あれ、母ちゃん戻ってきてないのかな…」
 一番頼りにしていた母親がいないことで、ティーダは少し不安になる。不幸なことに、子どもたちに持たされていた携帯電話は、服装が簡素だったため全て母親のカバンの中に入っているのだ。当然、それが部屋に置いてあると言うこともなかった。
 少し考えて、ティーダは階下、受付に走る。
「おっちゃーん!」
「あっれティーダ、お母さんと一緒じゃないのかい?」
 もうすっかり顔見知りの宿屋の主人が、こちらが物言う前に不思議そうにティーダにそう訪ねてきた。
「その母ちゃん探してんだ、おっちゃん知らない?」
「ティーダがいないからって探しにいったぞ?」
「え――!?」
 どうやらすれ違ったようである。
「電話してみたらどうだ?」
「ケータイは母ちゃんがもってるッス。あれないと番号わかんない!」
「あちゃー。おじさんもそれはしらないなあ。」
 困った。しょうがないからティーダは再びこちらをアテにする。
「じゃあ、この際親父でもいいや。親父しらねー?」
「ジェクトならまだ戻ってないな。」
「マジつかえね―――!!!!」
 ティーダの中の親父株がまた暴落した。

 ここでこの宿屋の主人に頼る、という発想に残念ながらティーダは至らなかった。
 親父にもかーちゃんにも、当然セシルの兄ちゃんにも連絡がつかない。どうしようセシルが出られない、どうしよう。
 困った。ほとほと困って、泣きそうになった。その時だった。
「…ジェクト、探してるのか?」
 聞き慣れない子供の声がした。
 危うく半べそのティーダがグっと我慢して振り向くと、そこにはやはり見覚えのない男の子がいた。少し茶色がかった短い髪。無表情な顔。自分とそう変わらない年に見えるけど、カインとはまた違ったクールなカンジでちょっとカッコいい印象だ。
「うん。探してる。知ってるッスか?」
「…ウチの保護者とどっかいったぞ。」
「え! マジで!?」
 予想外の展開だった。
「連絡つく!? なあなあ!!」
「ああ。……多分。」
 そう言って、男の子は携帯電話をポケットから取り出した。

 

 

――この電話は、電源が切られているか電波の届くところにおりません。この電話は、電源が―――

「……使えない…。」
 ぽつり、と呟いた少年に、ティーダは心から同情をした。
「充電しとけってレインが言ったのに…。」
「あんたも苦労してるッスね…」
 二人してロビーに座り、しばし沈黙した。

 が、しかしそう長い間ヘコんでもいられない。
「なー、どこに行ったかわかんないかなあ。」
「さあ。町の案内をする、としか言ってなかったから。」
「そんなあ…」
 ヘコんだティーダに男の子がさらりと言った。
「お前の方が知ってそうな気がするけどな。」
「え、なにそれ」
「ラグナは雑誌の取材に来てるんだ。その案内をするんだから、きっと観光スポットじゃないか。」
「…あ!!」
「お前が知らなくても、宿の人ならきっと心あたりがある。親しいんだろ?」
「お、俺、おっちゃんに聞いてくる!!!」
 勢い良く立ち上がり、ティーダは再び受付カウンターに走った。あいつ頭いい。めちゃくちゃ頭いい! そう思った。

 

 いくつかそれらしい場所を聞いて、ティーダは男の子と一緒に表に出た。
 ヘタをするとカインよりもクールな男の子は、一緒に来てほしいと頼んだら意外にあっさり了承してくれた。連れが皆出かけてて、ひとりで携帯ゲームをするにも限界があったらしい。
 スコール、と名乗った新たなパーティメンバーを加えて、ティーダはジェクトを探す旅に出かけるのであった。

 

 

 じりじりと、日光がむき出しになっているカインの背中を焦がす。
 夏の日差しには遠いとはいえ、南国は日が長い。そもそも日差しの強い時間を避けて外に出たのだ、とっくに昼も過ぎているはずなのだがまだ存外日は高く、狭い穴の中に射して来る日光まだかなり上からの角度だった。日陰も少なく、カインはそこにセシルを座らせて、自分は立ち上がり、自らを日傘がわりに紫外線からセシルを守っていた。
 この役は、身体の小さなティーダでは出来ない。
「カインごめんね…ごめんね、暑くない? もういいよ。」
「なんともねーよこんくらい。お前とちがうんだからさ。」
 子供らしからぬ不敵な笑みを浮かべるカインの額には、かなりの汗が浮かんでいる。ちっとも大丈夫には見えなかった。
「ごめんね僕のせいで…ごめんね…」
 でもセシルにはどうしようもできない。既に自分の体も大分だるくて力が入らない。情けなくて涙が出た。
「泣くなよ、お前のせいじゃないって。おかしなこと言い出したティーダが悪いんだ。」
 カインが口を尖らせる。セシルがびくりとした。
「ま、何か悪いとしたら、あんなのを本気にしたことかな。」
「え…嘘なの?」
「嘘っつかありえねーだろって。法律間に合わないからいくらなんでも。」
 カインが苦笑う。
「百歩譲って間に合ったとしてもさ、あいつが嫁入りだとか、お前おいてどっか行くわけないじゃん。な。」
 言いながら、花嫁衣裳を着るセオドールを想像しかけて、カインの背中に嫌な汗が混じった。ものすごく想像したくなかった。
 それを聞いたセシルはようやく表情を和らげて…
「…そうだね。」
 かすかに笑った。
 カインもようやくほっとして、笑った。

 

 が、3秒後に思い直した。

(…あいつがジェクトんとこにいったら、それすげぇ俺に好都合じゃんか。…失敗した。)

 

 

 

 30分、二人は狭い街を全力で駆け抜けた。
 驚くほど、ジェクト達の足取りはつかめなかった。全くと行っていいほど、情報は得られなかった。
「…もうダメだ。俺はセシルを助けられないッス…。」
 路地裏でティーダががくりと地に両手をついた。スコールは横で立っている。壁に向かってじっと、黙って。
 沈黙が「もう打つ手なし」と言われているようで、ティーダはついにぽろぽろと泣き出してしまった。
 ややあって、スコールがぽつりと呟いた。
「…俺が、間違っていたかもしれない。」
「…え?」
 ティーダは鼻をすすり上げて参謀の言葉に顔をあげる。
「こんなに足取りがないってことはおかしい。だったら…何か間違ってる。」
 壁に話すようにしていたスコールがキっとティーダの方を向いた。
「ごめん、あいつ、観光スポットなんかに行ってないんだきっと。」
「え、ええ!? どういうことッスか!?」
予想外の発言にティーダの涙も引っ込んだ。少しだけ熱を持ったスコールが言葉を続けた。
「ジェクトってここ地元なんだろ?」
「う、うん。」
「だったら…有名なところになんか行かない。きっと…地元の人しか知らない隠れスポットとか…そういうのだ! あの旅館だってそうだった…そういうほうがラグナの趣味っぽい!」
「ああ! それ…それすげえ親父っぽい!!!!」
 二人に電流が走る。それは間違いのない確信の衝撃だった。
「ティーダどこか知ってるか! そうだな…ラグナの趣味なら…。モノより食べ物…それより景色。海…じゃないな今更。逆に山とか…森とか…」
「森!!!」

 そこしかなかった。絶対に、地元の人しか知らない、ものすごく綺麗な…森。

 あそこはずいぶんと小さい頃に…父から教えてもらった場所だったんだから。

 

  

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子スコちゃんがカッコ良すぎる件。
なぜならこのメンツでカイン不在だと、頭脳役を振れるのはスコちゃんしかいなかったからだ!!

このあたりから、俺のテンションがバリ上がってて怖いですこのシリーズw
子カイセシ・ラヴューン。(゚∀゚)